一宮市を含む尾張地方には、江戸時代からお茶を嗜む「茶の湯文化」がありました。
深刻な飢饉などもなく、暮らしが豊かであったのかもしれませんが、農家である庶民の家にも野点の道具があり、田畑の脇にゴザを敷いて、農作業の合間にお茶を点てて飲む習慣がありました。
ゆったりとした時間を過ごす楽しさを知っていたのでしょう。
戦後、農業から製造業に移り変わり、お茶を点てることはなくなったものの、仕事の合間に一服するという習慣は続き、喫茶店が求められるようになったのです。
喫茶店でのサービスが度を超しているのも、茶の湯と関係しているのかもしれません。
茶の湯は、単にお茶を楽しむだけではなく、一緒に飲む人へのおもてなし精神でもありました。
丁寧にお茶を点て、茶菓子でもてなしていました。
これが、喫茶店でも継承されたのではないでしょうか。
「せっかく来てくれたのだから、満足して帰ってもらいたい」というサービス精神です。
そのサービスはどんどんエスカレートし、コーヒーのおまけではなく、立派な食事になっていたり、1日中モーニングを提供するお店が出てきたりしています。
土日は家族で近くの喫茶店へ。親子三代でモーニングという人たちもいます。
それが当たり前の光景となり、食文化として根づいているのです。
また、巨大な市場となっているため、コーヒー豆の焙煎所や食パンのメーカーも増えていき、地域経済を下支えする文化として定着しているのです。
モーニングという文化が生まれなければ、他の地域と同じような、普通の喫茶店に過ぎなかったのですが、いまや経済の要と言っても良いほどです。
繊維産業界において、工場がうるさいから、商談ができず、喫茶店の利用が増えました。
また、茶の湯の習慣から、お茶をする時間を大切にした結果、喫茶店に行く人が増えました。
こうして生まれたモーニングの文化は、地域の人びとが欲するものに応えていった結果なのです。
すなわち、地域の人びとの志向・欲求を的確に捉えれば、新しい商品・サービスを生み出すことができるということです。
実に面白く、興味深い。
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