首相も大臣も世襲ばかり。危機感も人材も足りぬ自民党が衰退させた日本

2022.12.01
 

しかし、このケースは特殊事例ではある。「自民党の人材難」をより明確に示すのは、やはり「世襲」の方だと思う。

今回の報道で驚かされたのが、松本氏が「伊藤博文の子孫」だったことだ。何というビッグネーム。松本氏自身が伊藤博文から代々続いた世襲というわけではないが、一般的なの世襲議員に何か「箔付け」されたような気持ちにもなる。

ビッグネームと言えば、松本氏に後を譲る形で更迭された寺田氏も、義理の祖父は池田勇人元首相。岸田首相が率いる派閥・宏池会の創設者である。

寺田氏に先立ち「2人目の辞任」となった葉梨康弘前法相も、葉梨信行元自治相の娘婿。信行氏も父親の地盤を継いでいるから、3世議員ということになる。「1人目」の山際大志郎前経済再生担当相は世襲議員ではないが、世襲でなかったからこそ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関わりを必要としたのかもしれない。

このタイミングで発売された中川右介氏の著書『世襲』(幻冬舎新書)は、歴代の首相の「家族関係」を軸に戦後政治史を描いている(ほかにも企業や歌舞伎界の世襲の実態も描いているのだが、とりあえずここでは置く)。

これでもかと言うほど、政治家の世襲に次ぐ世襲の話が延々と続く。頭では分かっていたつもりでも、心底うんざりさせられる。特に「岸信介・佐藤栄作・安倍晋三の一族3名だけで、戦後77年のうち20年も政権の座にあった」という一文にはめまいさえ覚えた。

その「戦後政治世襲史」の最後を飾る岸田首相自身も3世議員。そして首相は10月、この状況で長男を首相秘書官に起用した。

この本は政治家の世襲について「長く政権を握り続け、政府と一体化している自民党固有の現象と言っていい」と指摘。「いまの日本が経済的・外交的に衰退しているとしたら、その原因のひとつは、21世紀になってから世襲政治家が増えたことにある」「政治家の子でなければ国会議員になれず、なれたとしても大臣、総理大臣になれないとなったら、有能な人は参入してこない。いまの政界は、この状況にある」とも記している。

「親ガチャ」の勝ち組である世襲議員が幅をきかせ、世襲でない議員が旧統一教会に頼らざるを得ない。岸田首相は早くも、年内にも内閣再改造することを検討しているようだが、こんな党内環境のなかでは、何度改造を繰り返しても、失敗するのは目に見えているのではないか。

image by: yu_photo / Shutterstock.com

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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