世界一のスポーツ大国として知られるアメリカと、北京五輪では金メダル獲得数でそのアメリカを上回った中国。しかし現在行われているサッカーワールドカップでアメリカはベスト16で敗退、中国に至っては地区予選すら突破できずと、両国ともに超大国らしからぬお寒い状況となっています。その原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、米中にサッカーの本質が浸透しづらい事情を考察しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年12月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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米中がともにサッカーが苦手な理由
W杯カタール大会は、準決勝を目前として佳境に入ってきました。日本の対クロアチア敗戦は実に惜しかったですが、その一方で、この時点で米中という2大超大国が不在というのも、どこか妙な感じがします。
まずアメリカですが、昔からサッカーが苦手というわけではありません。例えば、1930年のW杯第一回大会(ウルグアイ)に出場して3位になっています。(優勝はウルグアイ、2位はアルゼンチン)ですが、この3位が最高で以降は活躍できていません。特に、1954年のスイス大会から、1986年のメキシコ大会までは9回連続で、予選敗退しています。
勿論、南北アメリカというのは非常に勝ち抜くのが難しい地区ではあるのですが、とにかくアメリカとしてサッカー不毛の時代があったのでした。アメリカ社会におけるサッカー人気も全くダメでした。
そんな中で画期的な事件として、1994年には地元アメリカ大会が開催されたのでした。アメリカは開催国としてベスト16に入り、これは当時もある程度話題になったのを記憶しています。ここでようやくサッカーへの認知が高まり、その2年後の96年には新しいプロリーグの「MLS」が発足する運びとなっています。
その成果は抜群で、2002年の日韓大会では何とベスト8に進みました。その頃、NYにあるMLSの本部で広報の方とお話する機会があったのですが、「この勢いで米国のサッカー人気を盛り上げたい」と意気盛んだったのを覚えています。ですが、結局USAチームは、その後もW杯では一進一退を続けており、2018年のロシア大会の際には予選で敗退してしまいました。
むしろ、W杯では女子の方が活躍しており、結局のところアメリカでは「サッカーは女性のスポーツ」という受け止めすらされていたのでした。その意味で、今回のカタールで、イングランドとウェールズに引き分け、イランに勝利という内容でベスト16に行ったのはかなりの善戦とすら言えます。
そのアメリカは、カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共催で行われる4年後の2026年大会では、主催国の1つとなります。ですから、とにかく2026年にはもっと「上」を目指そうとしています。今のチームは比較的若くMFの、ユヌス・ムサ(19歳)、タイラー・アダムス(23歳)、FWのクリスチャン・プリシッチ(24歳)など向こう4年間でさらに成長が期待できる選手がいます。
ただ、2026年にいきなり「ベスト8」とかいうのは現状の延長では無理でしょう。フォーマットがどうなるかは分かりませんが、とにかくベスト16を目指すというのが妥当なところです。
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