2.日本人はきちんと歩けているか?
日本に洋装が普及した頃、日本人の女性はきものをベースにした歩き方をしていました。内股で歩幅の小さな歩き方です。文化服装学院の図書館にある昔の「装苑」には、洋式の歩き方という特集がありました。大股で蹴り上げるように歩きましょう、というような説明だったと記憶しています。
洋式の歩き方は、骨盤で歩きます。できるだけ大股で歩くには、股関節だけの運動ではなく、骨盤も回転させます。右足を踏み出す時には、骨盤の回転運動と股関節の運動が加わるので、大股で歩けるわけです。
後ろ足を蹴ることで前に進み、着地するときには踵から地面につきます。蹴ってから踵がつくまでの間は、脚は伸びた状態になります。
上半身は左手が前に出ますが、これも肩から動くので、左肩が前に出ます。前に腕を振る時も、後ろに腕を振る時も、腕は身体の内側に振られます。
背筋が伸びた状態で、一歩ごとに上半身と下半身が捻じれ、まさに全身運動としての歩行ということになります。
洋式の歩き方に対して、和式の歩き方もあります。
まず、立った時に、洋式では背筋も膝も伸ばして立ちます。和式では膝を軽く曲げ、腰をやや落とし、上半身を垂直に保ちます。そして基本的に摺り足で歩きます。摺り足とは、常に踵と爪先が地面に接しているということです。室内では完全に摺り足で、屋外では摺り足気味に歩きます。
屋外で歩く時には、草履の裏を見せないように歩き、前足は爪先からつきます。
立った姿勢では、足は前を向き、適度な間隔を保ちます。そして、滑るように片足を摺り足で前に踏み出し、その脚の膝を曲げて、上体をその膝の上に移動します。そして、後ろに残った足の踵を地面に付けたまま、前に出した足に追いつかせます。
歩行中は上体を動かさず、両手は腿の上に置き、手を振ることはありません。上半身と下半身の捻じれもなく、最低限の運動だけで歩きます。歩行中に膝を伸ばすこともありません。
このように見ていくと、現代の日本人の歩き方は、和洋折衷であることが分かります。洋式の歩行のように、骨盤を回転させながらダイナミックに歩くこともなく、上半身と下半身が捻じれることもありません。腕の振りも前方だけが大きく、歩幅も小さく、膝が曲がったまま歩いている人も少なくありません。
一方で、きものを着ている時も和式の歩行を理解していないので、着崩れを起こしたり、草履の裏を見せて歩いても平気なのです。
我々は学校で歩き方を教わったこともありません。歩き方がどうでも、勉強や仕事にも関係ありません。しかし、歩行の方法とは、服や履物の文化に基づく所作なのです。
一度、自分の歩き方をチェックし、洋式と和式の歩き方を身につける日本の文化として見直して見るのも悪くないでしょう。
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