顧客データ「盗み見」の卑劣。大手電力会社を「新電力つぶし」に走らせる岸田政権の無為無策

 

「原発の積極活用」の国策から抜け出せない政府

家庭や企業に電力を届ける送配電網は、もともと大手電力の設備であり、新電力もそれを使っている。だからこそ、新電力の顧客リストを送配電会社も共有するわけであり、送配電会社が中立的でなければ公正な競争は保てない。

その送配電会社の100%株主が大手電力であるという仕組みは、もともと問題があった。大手電力の送配電部門を形だけ別会社にする「法的分離」ではだめで、「所有権分離」が必要不可欠なのだ。

それができないのは、要するに大手電力が拒否しているからだ。そこに天下りする経産省官僚も既得権死守に加担していると見ていいだろう。

日本の発電電力量に占める再エネの比率は2021年度で22.4%である。だが、水力発電を含んでおり、これを除くと、全体の14.6%ほどに過ぎない。ヨーロッパ主要国や中国と比較してかなり低い。太陽光発電が爆発的に増えたはずなのに、なぜその程度の普及率なのか。

その原因として真っ先にあげられるのは、「系統制約」というやつだ。早い話、送電網の能力が限られているため、天候に左右される再エネだと需要と供給のバランスが取りづらくなるというわけだ。しかしこれは多分に、再エネに消極的な大手電力の言い訳といった側面もなきにしもあらずである。

山地が多く平地が少ないという日本列島の事情もある。そのためか、たとえばメガソーラーに必要な広い敷地スペースを確保しようと森林伐採をして周辺の環境を破壊したり、安全性の低い安価な土地に太陽光パネルを設置したために土砂崩れの原因となるケースもある。コストダウンで暴利をはかる業者や投資家の思惑が、再エネのイメージを落としているのだ。

再エネ技術の発展が遅れ、発電コストが高いという問題もある。たとえば太陽光発電パネルの製造技術や性能において、かつて日本は世界をリードしていたが、その後は再エネに対する政策支援が十分に行われなかったため技術革新が停滞してしまった。

その一方で、政府の支援を受けた中国など競合国はグローバルな事業展開をはかり、効率の高い太陽光発電パネルの製造技術を急速に進化させ、低価格で大量生産できるようになっている。

しかし、こうした数々の障壁を乗り越えなければ、未来はない。力強く前進するには、政府が高い目標を掲げる必要がある。

政府は2030年度の温室効果ガス46%削減に向けて、野心的目標として再エネ比率36~38%をめざすとしている。以前の目標に比べると高くはなっているが、この数字を「野心的」というのでは、まだまだ消極的と言わざるを得ない。原発を積極的に活用するという国策から脱却できないため、再エネの発展をあるていど抑えようとしているのではないかと疑いたくなるほどだ。

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