“地方”の弊害。長野男女4人殺害事件の犯人を作り出してしまった社会の責任

 

容疑者のケースには合わなかった「家族の努力の結晶」

容疑者の名前を農園の名前にし、家業でスタートしたジェラート店を手伝うことは、家族の努力の結晶だったのだろう。

それは悪いことではないが、容疑者のケースには合わなかった。

そして事件は起こった。今後、捜査は進行し、精神鑑定も行われ、鑑定留置は数か月かかるかもしれない。

病名がついていない「普通の」容疑者は、おそらく自分とは関係性の薄い4人もの人間をなぜいとも簡単にためらうことなく殺すことが出来たのだろうか。

殺された方々は自分の近所のおばさんである、親戚のおばさんである、近くの優しい警察官である、父である警察官である。

こんな想像をしながら、事件の無念さを胸に刻みながら、客観的に事件を見ていきたい。

悪口を言われたと傷つく、そして殺人に至るメンタリティと行動には、医学的と生理学的、心理学的な説明も必要になるだろう。

それが安心につながるのであれば、その情報は有益だ。

しかし、事件の惨さだけを焦点化し怖がってしまうと、排除の論理が打ち勝ってしまい、似たようなケースを忌避する冷たい社会になってしまう。

精神鑑定が絡む殺人事件は責任能力の有無が焦点化され、加害者を封じ込めることに重き置きながら、活発の議論がないまま、新たなスティグマという烙印が強調されるだけである。

社会がどのように不幸を作らない仕組み作りに動くのかの議論を進めたい。

医師に辿りつかない人へのソーシャルワークをどのように機能させるのか、コミュニケーションが「難しい」と感じている人への姿勢として周囲や地域はどのようなかかわり方が最適なのか、私たちの社会にはまだまだやることがある。

安心して誰もがのどかな路を、声を出しながら散歩ができるようにするためにも。

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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