海外パビリオン申請ゼロ「大阪万博」に開催危機。会場建設工事を妨げている2つの要因

2023.07.19
 

アジアの労働者から見限られた日本

実は、アジアの労働市場において、日本の優位性が低下している。近年、中国人「労働者」が実は減少している。「外国人技能実習生」の受け入れがピーク時だった2008年には、およそ80%が中国人であった。

だが、中国経済の急激な発展によって、上海など都市部では建設ラッシュだ。賃金面で日本の優位性はなくなっている。現在では、中国の山間部まで募集をかけないと実習生候補が集まらない。中国人実習生の数はピークの半分程度に落ち込んでいるのだ。

また、韓国や台湾の単純労働者受け入れ政策への転換がある。韓国は、かつて日本の「技能実習生」をモデルに1993年に「産業研修生」制度を始めた。だが、労働者としての権利が保障されない制度には問題が大きいとして、日本に先駆けて2004年に単純労働者を受け入れる「雇用許可制」に移行した。この制度では、技術が習得できれば熟練労働者に移行することもできる。

台湾は、労働市場補完性の原則に基づく「雇用許可制」のもとで、製造業と介護分野を中心に外国人労働者を受け入れている。最大12年間(介護は14年間)の滞在延長が認められる。いずれも、日本より滞在の要件が緩い上に、労働者の人権にも配慮した制度であるといえる。

また、韓国、台湾と日本の賃金格差も、アベノミクス以降の円安の進行でなくなってしまった。日本の最低賃金はソウル、台北の賃金と変わらない水準となった。その結果、高い人権リスクを冒してまで日本で働くよりも韓国や台湾へ行こうと考える出稼ぎ労働者が増えている現状がある。建設需要が旺盛でも、簡単に海外から労働者を集められない状況なのだ。

さらに問題なのは、日本の外国人労働者に対するさまざまな人権侵害が、国際的な批判を浴びていることだ。

「外国人技能実習制度」という、一時的外国人労働者受け入れ制度がある。中国、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどアジア諸国から技能実習生として人材を受け入れる。1年間の研修の後、技能テスト合格を得て2年間技能実習生として勤務することができるという制度だ。

本制度の目的は、元々外国人労働者が研修で技能を習得して帰国し、その母国へ技能が移転されることを通じて、開発途上国の経済発展に貢献することだ。だから、外国人技能実習生は、労働ビザに該当しない「実習生ビザ」で来日している。

だが、実際にはこの制度は、中小企業や農業の人手不足を補う目的で使われてきた。そして、外国人技能実習生に対する、劣悪な環境の中で、労働基準法に違反した長時間の労働や暴言や暴力、不明瞭な賃金の差し引きや母国にある送り出し機関からの搾取や不必要な管理などが行われるなど、人権侵害問題が多数発覚する事態となった。

そして、人権侵害の問題は、SNSツールなどにより世界中に拡散されていく。外国人の技能実習生や労働者は、SNSでネットワーク化し、活発に情報交換を行っている。人権侵害を行う企業はごく少数に限られるとしても、SNSで拡散されれば、それが世界における日本の悪いイメージとなっていく。

また、国連人権委員会の作業部会は、日本の人権問題に関するさまざまな勧告を行っている。その中に、「技能実習生を含む外国人労働者や移住労働者の労働条件を改善し、彼らに対する人権侵害を防止するよう日本に求める」勧告が含まれる。

このように、日本の外国人に対する劣悪な労働環境や人権侵害などが、国際的に広く知られる事態となり、批判を浴びれば、日本で働きたい外国人労働者が減少していくのは当然であろう。

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