南シナ海でフィリピン輸送船に放水した中国がすぐ「矛を収めた」ワケ

Shenzhen,,Guangdong,,China,-,Apr,27,2023:,A,China,Coast
 

8月5日、南シナ海のスプラトリー諸島で、中国海警局の巡視船がフィリピンの輸送船を放水銃で排除しようとする事案が勃発。領有権を巡る両国の対立激化が心配されました。しかし、実力を行使した中国側がすぐに抑制的な動きを見せ、事態の沈静化を図っているようです。メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、火種となっているフィリピンの座礁軍艦の問題を解説。今回、中国側が強い措置を取らなかった理由については、中国の専門家の「西側諸国の落とし穴を避けるため」との指摘に注目しています。

南シナ海で再びフィリピンと緊張を高めた中国が抑制的な対応をした理由

8月5日、6カ国・地域が領有権を争う南シナ海で、くすぶっていた火種が再燃した。現場となったのは南シナ海のスプラトリー諸島仁愛礁=アユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)。同海域にはフィリピンの座礁した軍艦、シエラ・マドレがある。フィリピン側が同艦への物資輸送のため派遣した2隻の輸送船と巡視船に、中国海警局の巡視船が放水銃を使用し、排除を試みたことが対立激化の発端となった。

フィリピン沿岸警備隊は早速「中国が放水銃で攻撃してきた。国際法違反だ」と反発。一方の中国海警局は、フィリピン側の行動を、「国際法と『南シナ海行動宣言』に違反する行為」と反論。さらに「われわれは何度も警告したがフィリピンの船は無視した。われわれは衝突回避のため放水銃で警告した。現場での行動に非難されるべきところはない」(中国海警局報道官)と説明。自らの行動を正当化した。

中比の主張は真っ向からぶつかり合い、非難の応酬は海から陸へと場所を変えて激しさを増した。

フィリピン政府は、排他的経済水域内における物資の輸送は「国際法で守られた権利」としてフィリピンに駐在する中国大使を呼び抗議。シンガポールのテレビ局のインタビューに応じた安全保障会議のジョナサン・マラヤ報道官は、「フィリピン政府はこれからも国家主権及び領土の保全を維持し、すべての領土、その一切を失わないことをフィリピン国民に約束する。アユンギン礁の軍事拠点についても兵員と物資を補給するという決意が揺らぐことはない」と強気に応じた。

妥協の余地のない領土問題に引火し、両者が一歩も引かない姿勢を示せば、中比関係が劇的に悪化する可能性は高まる。メディアの報道も一気にヒートアップした。しかし、その後の展開は案に反して落ち着いたものとなった。

実は中国は「領有権争いが続く海域で平和を維持するため」の対話を求めるための特使をいち早くフィリピンに派遣して(シンガポール『CNA』8月8日)いたのだ。もちろん領有権争いが背後にあれば、問題が簡単に解決へと向かうはずはない。だが、それでも一時的な安定を取り戻すという意味で中国側の動きは確実に功を奏した。

なぜ中国が妥協的な動きをしたのかについては後述しよう。その前に少し今回の中比対立の背景にある仁愛礁の軍艦座礁と同艦への物資輸送の問題について詳しく見てみたい。

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