リクルートの「スタサプ」に学ぶ、予測が通用しない市場でのマーケティング展開法

2023.09.12
 

不確実性を十把ひとからげにしない対処法

イノベーションに挑もうとする企業は、事前の予測が通用しない荒波が渦巻く市場のなかで、いかにマーケティングを展開していけばよいか。スタサプの10年ほどにわたる事業の歩みは、そこで何がどのように必要となるかを理解するための優れた事例である。このスタサプの事例のなかには3つの不確実性がいく重にも渦巻いており、それらをいかに事業成長の機会に転換していくことができるかを学ぶことができる。

一口に市場の不確実性とはいっても、そこには3つの局面がある。状態の不確実性、効果の不確実性、そして反応の不確実性である。

スタサプが確立してきた事業は、わが国の教育に新たな選択肢を加えるイノベーションとなった。スタサプは、学校や家庭における学びを変革し、より場所や時間に縛られることなく、個々人に合った学びの機会を提供してきた。そこでは、どのような不確実性への対処が行われていたか。

第1の状態の不確実性については、スタサプが開業後8年ほどを経てコロナ禍に出会ったように、短期間に次々と直面する問題ではなさそうである。とはいえ、一度直面すれば、スタサプにとってのコロナ禍のように、状態の不確実性の影響は、機会としても脅威としても強大である。そしてコロナ禍のもとでの日々がそうであったように、この影響は猫の目のようにクルクルと転じていく。これにいかに応じてくかは、さまざまな事業の浮沈につながる可能性をもつ。このような不確実性への対峙の覚悟は、どのようなマーケティングにおいても、そこに責任をもつ人には求められる。

第2の効果の不確実性については、スタサプは事業開始後の比較的早い時期から複数回直面している。市場でどのように行動すれば、どのような効果が生じるかを、企業が実際に市場で行動をはじめる前に完全に把握することはそもそも困難だと考えておく方がよい。だからこそ、イノベーションに挑むマーケティングでは、市場で行動をはじめた後の臨機応変な振り返りと行動が重要となるのである。

第3の効果の不確実性についても、スタサプは事業開始の前後から繰り返し直面している。市場における行動のなかでは、何を自社の事業は目的とするかを臨機応変に見直すことがイノベーションにつながることがある。イノベーションに挑むマーケティングでは、市場で行動をはじめた後も、何が自らにとってあるべき目的かの振り返りを絶やさないことが欠かせないのである。

image by: Shutterstock.com

栗木契

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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