チラつく森元首相の影。鈴木宗男「離党覚悟で電撃訪露」の背後に蠢くもの

 

2000年には官房機密費から引き出した1億円を持参

もちろんプーチン大統領は、森喜朗、鈴木宗男両氏との長い蜜月関係からみて、鈴木氏の来訪に強い関心を寄せていたに違いない。

3人が出会ったのは、2000年4月29日、プーチン氏が選挙に勝って大統領に就任する直前のことだった。当時の森首相はプーチン氏に会うため鈴木内閣官房副長官をともなってサンクトペテルブルグに赴いた。

森氏はその年の4月5日に首相になったばかり。鈴木氏は官房機密費から引き出した1億円を持参していた。このときのことを森氏は誌上インタビューでこう語っている。

プーチン大統領は非常に喜んでくれた。日本の歴代首相は就任後、真っ先にアメリカを訪問することが多いが、僕の場合は最初にロシアを訪問したからなんだ。

その年の9月にはプーチン大統領が来日し、森氏との仲の良さをアピール。翌年には、ロシアのイルクーツクで日露首脳会談が行われた。そのさい、イルクーツク郊外のシェレホフ市に、姉妹都市提携に尽力した森首相の父、森茂喜元石川県根上町長の分骨を納めた墓があることを知ったプーチン大統領が「これから一緒に墓参に行こう」と提案し、森首相を感激させた。

イルクーツク会談にも、自民党総務局長だった鈴木氏が同行した。1990年に外務政務次官に就任して以降、鈴木氏は外務省に強い影響力を持っていた。北海道選出の議員であり、北方領土問題は彼のライフワークといえる。

昨年11月、鈴木宗男氏のパーティーで挨拶した森元首相は「ロシアのプーチン大統領だけが批判され、ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている」と語っている。

政治家がどのような政治的判断や行動をしようが、法に違反しない限り基本的には自由である。森氏が、日ロ関係において同志といえる鈴木氏を応援することにも矛盾はない。ウクライナに対する各国の支援疲れも指摘される昨今の情勢を鈴木氏が巧みについて、訪ロを敢行したと見ることもできよう。

ただし、米国に従ってウクライナを支援する日本政府の方針を無視した鈴木氏の単独行動を、日本政界に隠然たる影響力を持つ森元首相が支持し、激励するという絵柄は、諸外国に誤ったメッセージを発することにならないだろうか。ウクライナ侵略を正当化するためのロシア側のプロパガンダに利用されるのがオチであろう。

鈴木氏には、北海道の国政選挙や対ロ外交などで安倍元首相に協力してきたという自負がある。民主党の衆院議員だった長女の鈴木貴子氏を離党させ、自民党に入党させたのも安倍氏の要請があったからだ。対ロ姿勢で父と“一心同体”とみられている貴子氏は次期衆院選で比例から北海道7区に鞍替えして出馬をめざしている。

鈴木宗男氏は3日にロシア上院の副議長と会談したさい、こう述べたそうである。

安倍総理がプーチン大統領と極めて良好な関係を築いたのを、わずか1年で岸田総理はマイナスの方になってしまいました。

岸田首相としては、気分のいい話ではないだろう。日ロ関係悪化の原因は、プーチン大統領がウクライナを侵略したことにある。さりとて、森元首相に気を遣わなくては最大派閥をコントロールできない政治情勢であるのがつらいところだ。松野官房長官も鈴木氏の訪ロについては記者の質問に口を閉ざしている。岸田政権として何らかのメッセージを出さなくてもいいのだろうか。日本流の“曖昧作戦”が世界に通用するとは思えないのだが…。

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