どの口が言うのか?イスラエルとハマスに停戦を呼びかけるプーチンの魂胆

 

最低限の犠牲のレベルをはるかに超えるイスラエルの攻撃

今週に入ってアメリカは国連安保理緊急会合に戦闘の一時中断を求める決議案を出しましたが、「これは停戦を呼び掛ける決議ではなく、イスラエルの地上侵攻の可能性を匂わせる内容であり支持できない」と中ロは拒否権を発動し、今月の議長国ブラジルやマルタも反対に回っています。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、非常に残念なことに国連安保理は完全に機能がマヒし、国際紛争の効果的な解決策を一切示すことが出来ていませんが、今回は「そもそもイスラエル関連の決議は(アメリカが拒否権を使うから)安保理では絶対に通らない」というジレンマがいまだに解消されていないことも示しました(ロシアが提出した停戦を呼び掛ける決議案はアメリカに拒否権を発動させました)。

国連がすでに紛争調停の能力を失っている現状に対し、非常に珍しいことにグティエレス事務総長は、ハマスによる奇襲攻撃と人質を取るという蛮行を非難しつつ、「何もないところから突然(このハマスによる攻撃が)起きたわけではない。パレスチナの人々は56年もの間、非常に息苦しい占領下におかれてきたことを認識する必要がある」と述べ、ハマスによる攻撃は歴史や文化的な背景の中で起きてきたことを示唆しました。

もちろんイスラエルは猛烈に抗議し、グティエレス事務総長の辞任まで迫る状況で、報復措置なのか、今後、国連職員にイスラエルへの入国ビザを発行しないと宣言する事態に発展しています。

私はグティエレス事務総長を、国連人権高等弁務官時代から存じ上げていますが、その前にポルトガルの首相を務めていた時代から彼はパレスチナの窮状に心を痛め、パレスチナの人々に対する欧州の支援を引き出した立役者でもあり、同時に「イスラエルによる長年による占領とパレスチナの人々に対する差別的な対応は、国際人道法に違反する恐れが高い」と繰り返し主張していました。

その思いと胸の深いところにいつも流れていた怒りが今回、対イスラエル批判という形になったのだろうと、個人的には感じます。ただ中立性を期待される国連事務総長という職責から見ると非難されるだろうなとも感じますが、事務総長が感じる痛みを共有するところも大いにあります。

ただグティエレス事務総長が敢えて指摘した点は、今後、問題解決を図る上では決して無視できないポイントになることから目を背けてはならなくなります。これまで国際社会はこのことに目を瞑り続け、パレスチナの人々に自らの意見を平和裏に伝える手段をどんどん奪っていったのも事実です。

今回、欧州各国が少しアメリカの姿勢に対して距離を置き、欧州委員会のボレル上級代表(外交)の指摘にもあるように「(ハマスによる蛮行は激しく非難するが)イスラエルがガザに行っている仕打ちは国際人道法の観点から見ると違法の可能性が高いことも事実であることを認識しなくてはならない」という認識を、多くの国々が同じく指摘しだしたことは注目に値するでしょう。

国際人道法上、基本的には民間人への攻撃は禁じられていますが、“やむを得ない”場合には“最低限の犠牲に抑えること”を条件に許容される可能性があるというものがありますが、今回、イスラエルがガザに科している“もの”はこの最低限の犠牲のレベルははるかに超えるものであると考えられ、これは厳しく非難されるべき点でしょう。

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