どの口が言うのか?イスラエルとハマスに停戦を呼びかけるプーチンの魂胆

 

カギを握るトルコとイランという2つの地域大国

同様のことが、最近、ナゴルノカラバフ紛争で決着を見たアゼルバイジャンとアルメニアの緊張関係にも見られます。

ナゴルノカラバフにおけるアルメニアの実効支配にピリオドを打ち、地域からアルメニア色を徹底排除しようとするアゼルバイジャンは、ナゴルノカラバフ紛争での“勝利”では飽き足らず、これを機に積年の恨みと恥を克服すべく、アルメニアに武力侵攻するのではないかという情報が数多く入ってきています。

現時点ではまだ双方に抑止は効いていますし、予防調停も進んでいるのですが、今後、ナゴルノカラバフ紛争のケースのように、偶発的な衝突が起こるようなことがあれば、一気に全面戦争に突入する可能性が高まります。

これまではロシアの重しが効き、本格的な紛争を未然に防ぐシステムがありましたが、ロシアがウクライナ戦に没頭し、アルメニアの後ろ盾としての役割と、当該地域ににらみを利かすという抑止力を発揮することが出来ない状況を読み取り、アゼルバイジャンとアルメニアの綱引きが過熱しています。

この綱引きのカギを握っているのがトルコなのですが、民族・宗教的にアゼルバイジャン寄りであることは明白であるため、どちらかというと中立ではなく、プロ・アゼルバイジャンの立場を取っているため、実際には調停役には適しません。

これまではそこにカウンターフォースとしてロシアがいたり、最近ではアメリカがいたりするのですが、アメリカはもう完全に中東問題(とウクライナ)に縛り付けられているため、仮にアゼルバイジャンとアルメニアの間に有事が発生しても迅速に対応することは非常に困難であると思われます。

つまり、今回のイスラエルとハマスの戦いの激化が明確になるにつれ、漁夫の利をアゼルバイジャン(とトルコ)が狙いやすくなっているとも分析できるでしょう。

こちらも今、予防調停努力を発動していますが、アルメニア・アゼルバイジャン双方とも直に話し合うという気にはならないようで、偶発的な衝突がまた起きてしまった場合には、一気に紛争が拡大し、さらには周辺の紛争と呼応する形で、国際紛争の拡大に繋がる恐れが指摘され始めました。

調停役としてトルコを挙げましたが、イスラエルとハマスの戦いでも、ナゴルノカラバフ紛争でも、コソボ問題でも、そしてロシアとウクライナの争いでも顔を出すという特殊な立ち位置が吉と出るか凶と出るか、注意が必要です。

そしてこれらの紛争すべてに何らかの形で関与しているか関係があるのがイランですが、中国による魔法のような調停を受け、スンニ派の雄であるサウジアラビア王国との外交関係の回復がなされたため、アラブフロントでの緊張は緩和されていることから、国内の勢力基盤の再整備を含む“ほか”に手を出しやすくなったと言えます。

イスラエルが地上戦に出てガザに侵攻すれば、親イランの勢力を結集させてイスラエルに多方面からの攻撃を加える核になるでしょうし、中国とロシアという大きな後ろ盾による支援をフルに活用し、より力を発揮するでしょう。

そして実はイラン人の多くがもとはアゼルバイジャン人とも言われており、アゼルバイジャンを、同じくアゼルバイジャンで多数派を占めるトルコとサポートすることになれば、中央アジア・コーカサス地方の勢力図を塗り替える台風の目になり得ます。

強くなりすぎるイランは中東諸国が嫌いますが、「大きくなっても核兵器は持たない」というような誓いを立てることが出来れば、サウジアラビア王国を筆頭とした中東アラブ諸国は、イランの行いをある程度は黙認するという事態になり得ます。

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