どの口が言うのか?イスラエルとハマスに停戦を呼びかけるプーチンの魂胆

 

安保理に停戦決議案まで提出したロシアの思惑

これまで中東での核問題と言えば、イランの核問題と同義で、サウジアラビア王国などは“イランが核保有を行うのであれば、我々も”と息巻いていましたが、今後、イスラエルがハマスおよびその仲間たちの壊滅のために核兵器使用の脅しを(ロシアのように)行った場合、中東における核問題の矢印が、イラン方面から180度回転してイスラエルに向けられる可能性も懸念されます。

ちょっと妄想ではないかとのご批判を受けかねない見解ですが、実際に水面下でよく話されている内容でもあります。

アメリカ政府は当初、今回のハマスによる奇襲攻撃にイランが直接的な関与をしていないと見ていましたが、10月7日の奇襲攻撃から2週間が経とうとしている今、中東地域の米軍関連施設に対する攻撃が相次いでおり、イラン非難を再開しました。

この背後には、実際にフーシー派やイランと親密な関係を持つレバノンのヒズボラ、イスラム戦線などがイスラエルを包囲した攻撃を行おうとしているという分析もありますが、イスラエルを過剰に庇っていることから生じる反アメリカ感情とアメリカへの国際社会における非難、そして孤立の懸念から、中東地域、特にアラブ諸国からの非難の矛先をイランに向けさせたいという思惑も見え隠れします。

ブリンケン国務長官が国連安全保障理事会緊急会合でイランの関与について触れた際、予想していなかったバックラッシュがほかの理事国から起き、アメリカ政府は非常にショックを受けたと聞きました。

ブリンケン国務長官の発言後、サポートすると思われたフランスや英国が「これはイスラエルとハマスの問題を話し合い、停戦の機会を探る会合であって、イランの問題を取り上げる場ではないはず。議論のフォーカスをぼやかすのはサポートできない」と反論し、それに議長国ブラジル、マルタなどが乗ったと聞いています。

実際の安保理の議論は、一部を除けば、closedで行われているため、実際の発言と反応については分かりませんが、そのような話が漏れてくるあたり、現在の安保理の混乱が感じられます。

ロシア政府は、どの口がそのようなことを平然と言うのかという疑念は込み上げてきますが、今回のパレスチナとイスラエルの激しい争いと、力の上ではone-sided gameになる状況に対して、「双方が冷静になり、戦闘を停止し、いかにして民間人の被害をなくすかを議論しなくてはならない」と訴えかけ、安保理では停戦決議案まで提出しています。

自らが引き起こした世界を巻き込む紛争から目を背けさせるために、自ら平和の使者であるかのような振る舞いを徹底するのは、最大限の皮肉を込めて、もうさすがとしか言えませんが、国際的な関心がイスラエルとハマス、そしてガザの惨状に向いている間にウクライナの反転攻勢を徹底的に潰しにかかるという思惑が透けて見えてきます。

欧米諸国とその仲間たちからの物理的な支援が必然的に減少するか、予定を大幅に遅らせたものになるかは別として、侵攻から2年が経つ前に、ロシアとしてはウクライナを再度自らのコントロール下に置きたいという思惑があります。それがゼレンスキー大統領の失脚を伴う政治的なコントロールなのか、軍事的にギアアップした占領という形でのコントロールを想定しているのかは、今の段階では不透明ですが、不気味な動きがモスクワ、サンクトペテルブルク、そして対ウクライナ戦の最前線(東南部4州)で確認できます。

もしロシアの思惑がはまり、ウクライナ戦で決着がつくようなことになれば、あとはドミノ倒しのように周辺国にいずれロシアが攻め込むか、NATOを対ロ戦に引きずり込むかという、どちらにしても望ましくない結果に向かいかねません。

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