日本にも及ぶ悪影響。プーチンの停戦案に乗った世界が払わされる代償

 

ナワリヌイ氏の死を利用するようにすら見える欧米陣営

16日に反プーチンの筆頭格であったアレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で急死するというショッキングな事件が起き、ロシア国内でも彼を悼む集会が開かれ、400人を超える支持者が警察に身柄を拘束されるという状況が生まれましたが、先ほど触れたとおり、経済が安定しており、国民生活に特段戦争の悪影響が及んでいない中、多数のロシア国民にとって、今、プーチンを替えるインセンティブが働きそうにありませんし、戦況もロシア優位が伝えられる中、プーチン大統領の支持は高まっているともいわれています(統計の改ざんなどはあると思いますが)。

さらに「ウクライナがロシアに牙をむいたのは、その背後にNATOがいて、ロシアの国家安全保障を脅かしている」というプーチン大統領のロジックを信じている国民が、意外にも多いこともロシア国民にプーチン打倒を託すことはできないと考える理由です。

そして何よりも、プーチン大統領も何度も強調するロシア人の世界観である「どうせ誰もロシアのことは理解してくれない」という感情を、ロシア国民が広く共有しており、「ウクライナはロシアと一体であり、魂でつながっている存在だから、それを切り離そうとする企ては許すことが出来ない」という認識が広がっていることも大きな影響を与えていると思われます。

ナワリヌイ氏の死亡を機にアメリカも欧州各国もロシアに対する追加制裁の発動を仄めかしていますが、その根拠となる理由はともかく、個人的にはウクライナ支援疲れに陥っている欧米諸国とその仲間たちを再び結束させるためのカンフル剤として使おうとしているのではないかと、ちょっと邪推したくなります(プーチン大統領が反対派を粛正することは限りなく痛ましいことではありますが、厳密には国内マターですので、国際法的には干渉する権利はないはずと考えられますので)。

ロシア国民のプーチン大統領への支持が揺るぎないものであり、ロシア経済の状況も、インドや中国がロシア産の石油・天然ガスを買ってくれることで潤い、イランや北朝鮮が武器を供与してくれることで武器弾薬の供給も切れ目なく行われることで戦況も有利になってきているという状況から、内からの打倒は起こりえないと考えると、焦ってロシアがささやきかける停戦協議に欧米諸国とその仲間たちは乗るべきではないと考えます。

では調停官としてはどうするか?

私はロシアとウクライナの間の停戦は、いろいろな方から怒られるかもしれませんが、目指すべきではなく、代わりに欧米諸国とその仲間たちは再度ウクライナへの軍事・経済支援を強化し、隣国に侵攻するという蛮行に打って出たロシアをウクライナから排除し、同時に国際社会から締め出すことを目指す体制を構築することが大事だと考えます。

それは先週号でも触れたように“ロシアを永続的に封じ込めること”が必要となり、それはかなりの忍耐と一枚岩の協力が必須になりますが、それが出来ない場合には、また歴史は繰り返され、ロシアの勢力圏拡大に向けた企てが再度行われることになります。

そのためには中国を巻き込み、ウルトラCですがイランへの敵視政策を転換して、イランを封じ込め陣営に招き入れるという策を講じることを勧めたいと思います。

インドやブラジルに代表されるグローバルサウスの国々は、欧米諸国の上から目線の態度と言動に嫌気がさし、距離を置いていますが、実利主義に基づく政治と外交を行うという特徴から、ロシアに与するよりも、包囲網に加わる方が自国に利益になるうまみを認識させることが出来れば、ロシア・ウクライナ戦争に終止符を打つことに繋がる体制が構築できるかもしれません。

そういう観点から、現在、日本政府と企業が音頭を取っているウクライナ戦後復興会議や独自の支援の協議・実施という動きは、適切な方向を向いている優れた動きであると考えます。

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