日本にも及ぶ悪影響。プーチンの停戦案に乗った世界が払わされる代償

 

日本の安保政策にも悪影響を与えかねぬ現時点での停戦合意

またザルジニー前総司令官の後任のオレクサンドル・シルスキー総司令官も「ロシア軍が全ての前線で進軍しており、ウクライナ軍は攻撃から防御に転じなくてはならない」と発言したことも、士気の低下につながっているだけでなく、国民のゼレンスキー大統領支持の低下にもつながっています。

いまでも7割強の国民はゼレンスキー大統領支持と言われていますが、ゼレンスキー大統領が掲げる「ウクライナ全土の奪還」は不可能と考える国民がこのところ増えてきており、昨年12月の調査によると「東部を含む領土の一部を失うことになっても、戦争を終結すべき」と答える人の割合が全体の2割に達するまでになってきました。まだ74%の国民は「それでもロシアに対して反抗し、戦いを止めてはならない」と継戦を支持していますが、それもこの先の戦況次第ではどうなるか分かりません。

ではもう一つの当事国ロシアはどうでしょうか?

私は直に見たわけではないのですが、最近モスクワやサンクトペテルブルクを訪れた調停グループの仲間によると「少なくとも戦争の影はまったく感じられない。経済状況は良好で、特に市民が生活に困るという声は聞かれず、日常生活を普通に送っているようだ。また最近、戦略の変更を受けて戦況が好転し、兵器・弾薬の生産・補給態勢も、戦時経済政策の影響で整ってきていると思われる」とのことで、少なくともロシアが押している状況が生まれていることが想像できます。

それゆえでしょうか。プーチン大統領は年末あたりから再三アメリカ政府にコンタクトし、停戦協議に応じる姿勢を示し、アメリカにウクライナを説得するように要請しているという情報が多々入ってきています。

ただここで気を付けたいのは、プーチン大統領はウクライナを停戦協議の相手(カウンターパート)とは見ておらず、アメリカの大統領と直接に交渉したいという思惑が鮮明になってきています。

もともとウクライナへの侵攻を決めた一つの要因が「NATOの東進を阻みたい」という狙いですので、それをNATOの主であるアメリカと交渉して獲得できたとしたら、プーチン大統領にとっては大勝利と言えます。

さらに気を付けたいのは、ロシア優勢の状況で、ロシア・ウクライナ間のパワーバランスが均衡していない状況での“停戦”は、ただロシアの支配地域の拡大を招く結果にしかならず、それはウクライナの敗北と消滅に繋がりかねません。

欧米諸国は国内事情と支援疲れもあるのでしょうが(そして中東地域の危機に集中したいから)、ウクライナに停戦協議に応じるように圧力をかけていますが、これには大きな注意が必要です。

停戦協議に今、ウクライナが応じるべきではないことはすでにお話ししましたが、欧米諸国はウクライナが敗北した時のネガティブな影響について、もう少し意識する必要があるのではないかと思います。

ウクライナが敗北した場合、それは新たに1,000キロメートルを超えるEU各国の国境にロシア軍が迫ることを意味するからです。

その場合、いくらプーチン大統領が「周辺国に攻撃を拡大することに関心はない」と公言しても、NATOとアメリカ軍は必然的に東欧諸国への軍備増強を迫られることになり、それはアジア太平洋地域を含む“他の脅威”への対応体制を遅らせることに繋がりかねない事態に陥り、それは我が国日本の安全保障政策にも大きな影響を与えることになりかねません。

そのような事態を未然に防ぐためには、戦争の雰囲気がないロシア国民がプーチン大統領に反旗を翻すような状況を作り出したいと欧米諸国とその仲間たちは願っているようですが、その企てがうまく行くかは未知数です。

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