例年通りの「金太郎飴」状態。重要テーマに触れぬ日本メディア「中国報道」の怠慢

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3月11日、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が閉幕しました。日本のメディアは、経済成長の目標値への疑問や軍拡の懸念など、毎年ほとんど変わらない内容を伝えるだけで、今年の全人代の重要テーマ「新たな質の高い生産力」にはほとんど触れなかったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、世界経済の行方を占うことにもなる重要テーマに踏み込むことをしないメディアの姿勢を疑問視。日本人読者の理解不足は、メディアの怠慢が原因と批判しています。

中国全人代を伝えた日本メディア。その報道が陥ってる「毎年同じ金太郎飴」という惨状

読まなくても結論が分かる──。残念だが、日本で接する中国関連ニュースにはそんな特徴がつきまとう。3月上旬、出そろった全国人民代表大会(全人代)の報道を眺めてみても、それが確認できる。

まず李強首相の政府活動報告から経済成長の目標値(今年は5%前後)を取り出し、その実現の可能性に疑問符を投げかけ、次に国防費の増加率(前年比7.2%増)に対して「軍拡に懸念」と書く。そして台湾問題で中国が力の行使を「しそうだ」と匂わせる(今年は「『平和統一』の文字が消えた」ことをクローズアップしている)ようにまとめれば大まかな流れは出来上がる。これに中国の人権問題や非民主的な要素をとらえて批判を散りばめればほぼ例年通りの報道が完成する。

今年は、閉会日の首相の内外記者との会見が取り消されたので、習近平政権の閉鎖性がやり玉に挙がった。首相会見は1988年、当時の李鵬首相の時に始まった。これを止めることが果たして「閉鎖性」に当たるのか否かは後述する。

その前にまず、今回の全人代で習近平政権が最も打ち出したかった重要テーマとは何だったのか、という基本的な問いを投げかけてみたい。おそらくほとんどの読者は理解していないだろうが、それはメディアの怠慢だ。

キーワードは、「新たな質の高い生産力」であるが、「新たな質の高い生産力」という関連ワードを日本でネット検索しても、あまり引っかかってこない。目立つのは外国メディアの日本語発信と中国系のメディアだ。

また記事を読んでも「新たな質の高い生産力」が何なのか、今一つ漠然としていてわかりにくい。だからこそ母国語で伝えてくれるメディアの役割が重要なのだが、日本にあるのは「日本の失われた30年に向かう」と、「ピークアウトした」を匂わせる手垢の付いた未来予測ばかりだ。だが数字から見れば中国はいまだ世界の経済成長の約30%を担う存在だ。

王毅外相が会見で述べた「中国の次は中国」も決して的外れではない。米ブルームバーグも「中国市場は代替不能、資産運用事業に縮小計画なし‐JPモルガンAM」(2024年3月8日)と報じている。

その中国が従来の発展に限界を感じ、今後の発展のために新たなモデルを必死に模索している。そんななか開催された全人代で打ち出されたのが「新たな質の高い生産力」であれば、その中身を精査し理解することは世界経済の行方を占うことにも直結する。それをなぜしないのだろうか。

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