国民の“真の声”が日本を救う。やりたい放題の自民政権に鉄槌を下せる「ミニ・パブリックス」とは

 

同性婚の合法化や妊娠中絶を禁じた憲法改正の提言も

地球温暖化問題のように、市民全員が影響を受ける社会的課題は、職業政治家に任せるのではなく、くじ引きで選ばれた市民が議論してルールを決める。こういった意思決定の手法は、「ミニ・パブリックス」と呼ばれている。

ミニ・パブリックスに詳しい名古屋大学の三上直也教授は、こう話す。

「くじ引き型の市民議会は、気候市民会議だけではありません。アイルランドでは、10年代に同性婚の合法化や妊娠中絶を禁じた憲法の改正が提言され、いずれも国民投票を経て法制化されました。賛成と反対が大きく分かれるテーマの場合、議会で議論しても党派間の対立につながって合意形成が難しい。そのような問題をあえて市民に委ねて議論することで、問題解決までの歩みを進めることができます」

気候市民会議は、日本では2020年の札幌市を皮切りに始まった。現在では少なくとも15の自治体で実施されている。

課題もある。イギリスやフランスが国レベルで気候市民会議を開催したことに比べ、日本では地方自治体でしか開催されていない。また、会議で提言された内容が必ずしも新しい条例の制定や政策の実現につながっていない。三上教授は言う。

「会議が提言したことを、政治家がすべて法律や条例にする必要はありません。一方で、市民からの提言には『これは市レベルの権限では実現できない』『利害関係者を招いて議論をする必要がある』など、何らかの応答が必要です。日本ではそのことが徹底されていないのが課題で、今後は市民の提言に実効性を持たせることが大切です」

ミニ・パブリックスの手法は革新的なものに思われているが、源流をたどればクジ引きで重要政策を決定していた古代ギリシャの民主制にたどり着く。気候市民会議は、職業政治家の限界を補完する古くて新しい「民主主義のイノベーション(革新)」でもある。日本でもその挑戦が始まっている。

(フリーランス記者・西岡千史)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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