今や200発程度の核弾頭を保有していると見られるイスラエル
長崎大学核兵器廃絶センターの「世界の核弾頭一覧(2018年)」によると、イスラエルは17年現在の推定で、地上発射弾道ミサイル用の核弾頭50発と航空機搭載用の30発、計80発を保有している。運搬手段としては、地上発射弾道ミサイルのジェリコ2(射程1,500~1,800km)とジェリコ3(推定当時は「開発中」、~4,000km)、航空機は米国供与のF16戦闘爆撃機(射程1,600km)である。
が、今では80発を遥かに超えて200発程度の核弾頭を保有し、さらにそれを超えて数百発を製造できるほどの核物質を蓄えており、さらに運搬手段として潜水艦発射の技術も完成していると見做されている。
イスラエルが核開発に取り組んでいるという噂は前々から流れていたが、国際社会がそれが噂でなかったことを知ったのは、英サンデー・タイムズが1986年10月に放ったスクープ記事で、イスラエル南部のネゲブ原子力センターの元技術者の内部告発証言と、彼が撮影した多数の写真によってであった。
が、もちろんイスラエル自身は核保有をあるともないとも明言しない曖昧戦略を採っている。
けれども、第2次大戦後に至るまでのいろいろの経緯がある中で、究極の「人工国家」として英米によって無理矢理アラブ世界の真っ只中に落下傘で飛び降りるように強行着陸させられたイスラエルが、周り中からの敵意に取り囲まれて、さあどう生き残って行こうかという場合に、核兵器を持つしかないのかと思ったのは自然かもしれないし、それを支援したフランスや米国を直ちに非難すべきではないかもしれない。
しかし、米欧がイスラエルの核保有には目を瞑って黙認し、そのイスラエルの核に対抗するには自ら核を持つしかないのかと思い詰めたかつてのイラク、現在のイランを「悪の権化」であるかに言って国家破壊を仕掛けるというのは、究極の二枚舌ではないか。
しかも、イスラエルは核拡散防止条約には加わらず、半ば公然と核開発を進め、他方イランは同条約に入ってIAEAの査察を進んで受けてきた。そのイランがボコボコに爆撃され、イスラエルはほくそ笑んでいる。
米国がイラクを軍事攻撃しサダム・フセインを虐殺までしたのは、亡命イラク反体制派の「フセインは大量破壊兵器を隠し持っている」という“証言”がきっかけだった。それを信じたブッシュ・ジュニアは世界に向かってそれを得意げに振りかざし、イラクに侵略したが、その“証言”なるものはイスラエル諜報機関の用意したフェイクだった。
今回の「イランは間もなく核兵器を手にしようとしている」というのも同じパターンで、米国の全政府機関の情報部門を統括するNIC(国家情報評議会)のギャバード長官が「イランは核兵器を製造していない」という判断を公式に打ち出しているのに、トランプはイスラエルのフェイク情報の方を信じ、進んで戦争に巻き込まれようとしている。歴史は繰り返すということである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年6月23号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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