「米軍も自衛隊も関与しない」台湾に広がる中国“侵攻”時の悲観論

2022.07.14
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ロシアのウクライナ侵攻で、ますます現実味を帯びてきた台湾有事。事実、中国による台湾への経済的・軍事的威嚇は繰り返し行われているようです。このような現状及び台湾国内の動きを取り上げ詳しく解説しているのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、依然緊張が続く「中台関係の今」と、ウクライナ戦争を経て大きく変化した、台湾国民の米軍や自衛隊に対する意識を紹介するとともに、日本が今のうちから強化しておくべき対策を提示しています。

台湾有事へ現実的対策を取り始める台湾、高まる米国への懸念

ロシアによるウクライナ侵攻から4ヶ月が過ぎるなか、中台関係でも緊張が依然として続いている。中国による台湾への威嚇は2つの手段によって構成される。1つは経済的手段、いわゆるエコノミックステートクラフトと呼ばれるもので、たとえば、中国の税関総署は6月、台湾産の高級魚ハタの輸入を一斉に停止すると明らかにした。税関総署は台湾から輸入されるハタから複数の禁止薬物が検出されたためと説明したが、中台関係が冷え込む中、中国が台湾に対して政治的圧力を掛けるために経済制裁に出たとの見方が強い。中国は昨年3月にも、台湾産パイナップルなど果物3種類を相次いで輸入停止にしている。

もう1つは軍事的手段で、たとえば、国防省にあたる台湾国防部は5月30日、中国軍の戦闘機や電子偵察機、早期警戒機など延べ30機が台湾南西部の防空識別圏に進入したと明らかにした。今年に入って確認された一日に進入した中国軍機の数としては1月23日の39機に次ぐ2番目の多さとなったが、台湾の蔡英文総統は5月31日に米国の上院議員団と会談したことから、それをけん制する狙いがあったことは間違いない。近年、米国だけでなくフランスやオーストラリアなど他の欧米諸国の指導者層も相次いで台湾を訪問し、蔡英文政権戸の結束を強めており、中国はそれに強い苛立ちを感じている。このような経済と軍事による台湾への威嚇は今後も繰り返されるであろう。

そして、ロシアによるウクライナ侵攻により、台湾市民はさらに中国への警戒感、米国などへの懸念を強めているようだ。台湾のシンクタンク「台湾民意基金会」が3月に発表した世論調査結果によると、台湾有事に対して米軍が関与すると回答した人が34.5%となり、昨年10月に実施された同調査から30.5%も低下し、同様に本の自衛隊が参戦すると回答した人が43.1%となり、昨年10月に実施された同調査から14.9%あまり低下したことが分かった。また、同シンクタンクが6月に新たに実施した最新の調査結果によると、バイデン大統領が5月の訪日の際に台湾防衛に軍事的に関与する意思があるとした発言に対し、「信じる」が40.4%だった一方、「信じられない」が50.9%と懐疑的な見方が過半数を超えた。

ウクライナはNATO加盟国ではなく、米国の軍事同盟国でもないことから、ロシアによるウクライナ侵攻当初から米軍関与はないとの見方が強かったが、それによって、台湾市民の間では米軍への悲観的な見方が大幅に増えている状況が明らかになった。

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