これは酷い。国語のプロが追及する、新センター試験「12の不備」

 

問1

不備1)口語(会話文)ゆえの曖昧さが、いくつかの点で理解を濁らせてしまう。

不備2)「★が何によってどうなることを指すか」と問うているのに、「★が」の語句が模範解答に入っていない。入れる必要があるのかないのか。字数指定がシビアなのでこれは重要。

不備3)「★が」を入れると、「(どう)なる」という言い方で答えにくくなる。

問2 モニター調査の正解率が高いため授業ではパスした。ここでもパスする。

問3

不備4)採点基準によれば、抽象化されたハイレベルな答案が、正しいにもかかわらず不正解になってしまう。「できる子ほどできない問題」の典型。

不備5)「の是非。」が20字に入るのかどうかが分かりづらい(解答用紙次第だが)。

不備6)「の是非。」という指定が、表現上の答えづらさを生み、不正解が増えたと思われる。

問4

不備7)条件4が要求する「引用すべき根拠」として妥当な箇所は、採点基準に示された2箇所以外にも多々あるため、正答が誤答になるケースがいくらでも考えられる。

不備8)条件が多すぎて、書けるものも書けなくなってしまう。

不備9)条件1の文に曖昧な表現がある。

不備10)条件2の文に曖昧な表現がある(2とおりの解釈が可能な表現が2箇所ある)。

不備11)条件4の文に曖昧な表現がある。

不備12)行政への賛成意見しか書けないことに違和感がある。

さて、それぞれより詳しく見ていこう(これをお読みのみなさん。まずは、ご自身で解いてみることが必須です)。

問1

正答及び基準(全ての問いの設問,解答,解説PDFはこちら

fukushima02

不備1)口語(会話文)ゆえの曖昧さが、いくつかの点で理解を濁らせてしまう。

PISA型読解。全国学力テスト。公立中高一貫校適性検査。こういったテストにおける共通点は、非連続型テクスト――ストレートな文章ではない題材、たとえば図・表・グラフ・ポスター・広報資料・公的文書等々――を用いたがるという点だ。会話文も、その意図に沿ったものであると言える。要は、従来の評論読解や小説読解にとにかく抵抗したいというわけだ。あるいは、日常生活に現れてくる種々の現象を、解釈された文章になる前の生々しい姿のままで扱いたいということだ。

でも結局のところそれらは連続型テクスト(文章)の集合体に過ぎなかったり、あるいは文章を図式化しただけであったりするわけで、大差ないのである。

今回の会話文も、結局は単なる文章。

だからいっそのこと説明文に変換してしまえばいいのに、「日常場面」にこだわり「父と姉の会話」に仕立て上げたがために、理解が濁る部分が増えてしまった。

さて、先にリンクした問題の本文を見ながら考えていただきたい。

最初の父のセリフ。

「最近~治安の面が不安だ」の文(1)も、「それが~かもしれない」の文(2)も、「地元の企業~出ているしね」(3)の文も、その発言主体が曖昧なのだ。父の感想が述べられているのだと思って読んでいると、「そこで市としては」と始まる。え? じゃあ、(1)~(3)は、市の考えなの? 「そこで」が指示する範囲は(1)~(3)全部? それともその一部? ここは大切。ここが分からないと、「一石二鳥」を正確に言いかえられない。

もちろん、部分的には簡単だ。

「つまり」の前を見れば、「二鳥」のうちの「1羽」が「観光資源にすること(観光資源化)」であることはすぐ分かる。

すると、「一石」は「景観を守ること」だということになる。これもすぐ分かる(一石とは、1つの石というより、一度石を投げるという動詞のニュアンスでとらえるのが正しい)。

迷うのは、残りのパーツ、「もう1羽」が何なのかということだ。

模範解答・採点基準によれば、その答えは「治安の維持」だ。

たしかに「一石二鳥」という言葉は、本来の目的とは異なる成果(収穫)を得ることができるときに使う。「部屋の大掃除をしていたら、きれいになっただけでなく、探していた指輪も見つかった。一石二鳥だった」というような使い方だ。その意味で、「観光資源化」と「治安維持」はだいぶ異なっており、適していると言える。

しかし、「そこで市としては」の前はあくまで父の感想であり「二鳥」の内容はそこには書かれていないと捉えると、次のような答案が生じうる。

ガイドラインを示すことによって、街の景観が守られ街が観光資源化されること。

実際、この内容の組み合わせで書かれた答案が、当塾生徒19名中7名いた(37%)。

ちなみに、19名の内訳は以下のとおり。

中2…3名/中3…2名/高1…6名/高2…5名/高3…3名

学年が低いから間違えるというほど内容的難易度の高い題材ではない。学年に関係なく”間違える”わけだ。たとえば高校3年生だけ19名でやっても、ほとんど同様の結果だっただろうと思われる(他の問いも同様)。むろん19名というのは統計上あまり参考にならない分母だが、おおまかなところは推測できる。

なお、大学入試センターの用意した答えと同じ(つまり正解)だったのは、これも19名中7名(37%)。600人モニター調査の43.8%と大差ない。およそ4割だ。

おそらく600人のうちかなりの人数が、今挙げた誤答パターンだったと推測される。

そもそも、会話では父が「ガイドラインを示して景観を守る」と言っており、これは因果関係にとらえ得る(「て」には様々な働きがあり、そのうちの1つが因果関係の接続である)。すると、先の誤答例は内容的には父のセリフに何ら反していないことになる。

この部分について、模範解答では「景観を守るガイドライン」と順序を逆にしてひとくくりにまとめているが、これは「結果―原因」または「目的―手段」をひとくくりにまとめているだけだ。これを分けてしまえば、原因(手段)を「一石」と捉えることができるようになる。

たしかに父は、4つ目のセリフでも空き家について述べており、市のガイドラインに対する父の解釈(一石二鳥)の中に「空き家対策(治安維持)」が含まれている可能性は高い。

しかし、だからと言って、先述の37%が出した“誤答”を積極的にバツにする根拠が明確にあるとも言い難いのである。

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