【書評】スイスを見習え。日本の平和教育が「知的怠惰」な理由

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永世中立国であるスイスと日本との決定的な相違点―、それはいったいどんなところなのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、ある1冊の本を紹介しながらスイスの永世中立の基盤を考察するとともに、日本の平和教育の問題点をあぶり出しています。

平和を守る具体策はほとんど語らない「平和教育」 占部 賢志(中村学園大学教授)

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民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる
スイス政府・編 原書房

私は、複雑な国際関係を読み解く際は、こうであってほしいという期待や希望、あるいは好き嫌いなどの感情で見てはいけないということを徹底して教えてきましたが、この本に書かれている世界観はリアリズムに徹しています。

まず、世界の見方が日本とはまるで違うのです。戦後の日本では、世界は平和愛好の国ばかりで、したがってそれらの国の公正と信義を信頼して我々日本の安全をゆだねる、そういう趣旨のことが現行憲法の前文にあるように、外部に依存している。

しかし、これは虚構ですね。

長く続いた東西冷戦が終わったかと思えば、今度はテロの時代に突入。最近ではトランプ政権誕生や英国のEU離脱などに見られる強烈な自国第一主義の台頭など、世界は混沌とした情勢です。こうした現実を、スイスの「民間防衛」は目をそらさず正視してこのように述べています。

重要ですからポイントをピックアップしておきます。

最小限度言い得ることは、世界がわれわれの望むようには少しもうまく行っていない、ということである。危機は潜在している。恐怖の上に保たれている均衡は、十分に安全を保障してはいない。それに向かって進んでいると示してくれるものはない。こうして出てくる結論は、我が国の安全保障は、われわれ軍民の国防努力いかんによって左右される。

いかがですか。永世中立を支えている基盤は、このような徹底したリアリズムなのです。「危機は潜在している」と説く、こうした世界観は、そのために何を用意しておくべきかを精密に提言するわけです。

これに対して我が国の「平和教育」は、観念的に平和の尊さを説くだけで、平和を守る具体策はほとんど語らない。それは知的怠惰というほかない。

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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