【自衛隊】歴史が証明する軍事力による「自国民保護」の危うさ

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国連による初歩的なルール決定が先決

日本は従来、「在外自国民の生命・財産に対する侵害・危険はわが国に対する武力攻撃には当たらず、その保護のための武力行使は、国際法上の当否は別として、わが国憲法上は自衛権の行使としては許されないが、避難するわが国国民を輸送するだけの目的で海上自衛隊の船舶を使用することは、平和目的であって憲法上も許される」という公式の見解をとってきた(1973年9月衆院決算委員会での吉國一郎内閣法制局長官の答弁)。もし日本が個別的自衛権の拡張解釈でやろうとするなら、この法制局長官の答弁も変更しなければならない。

自衛権を拡張解釈する場合の難点の1つは、同長官が言うように、在外邦人の危機が自衛権を発動するほど重大な国家的な危機に当たるかどうか極めて疑わしく、自衛権の濫用となる危険があることだろう。特に日本は過去に邦人保護を名目に侵略戦争を行った歴史を持つので、アジア諸国は敏感に反応する。

自衛権で救出活動を正当化しようとする場合のもう1つの難点は、自国の国益、自国民の保護のために出動するのである以上、その地域で危険に晒されている他国民をも救助するには別の理由付けが必要となることである。米国の場合ははっきししていて、救出の優先順位は、米国籍者、グリーンカード所有者、イギリス・オーストラリア・ニュージーランド・カナダ国籍者(これはどういう分類なのか:アングロサクソンは米国人の次に大事?)、その他の順である。逆に上述のシンガポールやタイのように自国民優先を敢えて謳わない例もある。

こうして、自国民保護・救出に関しては国際的な共通ルールがないばかりか、国際法の専門家の間でさえ意見が割れている。小沢が言うように、本来は国連ベースで何国人であろうと救助すべきだが、国連警察軍ないしその地域版としての例えばアジア警察軍も存在しない現状ではそれも叶わない。1つの案は「国連の授権により単独もしくは数カ国共同で行う」ということにして、国連がその授権の際の初歩的なルールを決めるということだろう。いずれにせよ、日本がおっとり刀で飛び出して行くような格好でこの領域に軽率に踏み込むのは危険極まりない。

 

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.172より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。2002年に早稲田大学客員教授に就任。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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