■業績動向
1. 2026年3月期の業績概要
富士紡ホールディングス<3104>は、1896年の創業以来、長きにわたり繊維・紡績事業を中核としてきたが、2006年以降の抜本的な事業構造改革を経て、現在では研磨材事業と化学工業品事業を2大成長エンジンとする高収益の先端材料メーカーへと変貌を遂げている。
2026年3月期の連結業績は、売上高45,929百万円(前期比7.0%増)、営業利益8,143百万円(同25.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益5,612百万円(同25.4%増)と、全段階において大幅な増収増益を達成した。特に営業利益及び親会社株主に帰属する当期純利益については過去最高を更新しており、前中期経営計画「増強21-25」で掲げられていた資本効率の目標であるROE(自己資本利益率)10%以上、ROIC(投下資本利益率)10%以上をそれぞれ11.3%、11.5%という水準でクリアし、財務的なコミットメントを果たす結果となった。業績拡大の背景には、生成AI及びデータセンター向けを中心とする先端半導体市場の旺盛な需要を的確に捕捉した研磨材事業の躍進と、電子材料分野にけん引された化学工業品事業の安定的な高稼働がある。非繊維分野の高収益事業が全社業績をけん引する構造は、同社が推進してきたポートフォリオ変革による結果である。
2. セグメント別業績概要
(1) 研磨材事業
研磨材事業の売上高は22,561百万円(前期比16.9%増)、営業利益は6,385百万円(同35.0%増)と、大幅な成長を遂げた。セグメントの営業利益率は28.3%に達し、同社の利益創出の絶対的な中核を担っている。同事業の売上の6〜7割を占める主力のCMP用途が同26%増と急激な伸びを示したことが最大の要因である。これは、生成AIブームを背景としたHBMなどの最先端メモリやロジック半導体の需要拡大が直接的に寄与している。同社は世界のCMPソフトパッド市場において約80%(同社調べ)という圧倒的なデファクトスタンダードを握っており、半導体の微細化・積層化が進めば進むほど、平坦化プロセスに不可欠な同社製品の需要が必然的に拡大する好循環に入っている。
また、液晶ガラス用途については中国の補助金政策を追い風にパネル需要が好調に推移し、前期比33%の増収となった。ただし、同社は液晶向け需要の急増をスポット的なものと分析しており、次期以降の大幅な伸長は見込んでいない。ハードディスク(HD)用途はデータセンター向けの根強い需要により前年並みを維持し、シリコンウエハー用途も先端品向けが堅調に推移した。
(2) 化学工業品事業
化学工業品事業の売上高は14,113百万円(前期比4.7%増)、営業利益は1,417百万円(同16.4%増)となった。受託製造ビジネスを展開する同事業は、半導体関連を含む電子材料市場の継続的な拡大に加え、長期にわたり在庫調整局面にあった農薬中間体市況が緩やかながらも回復傾向に転じた恩恵を受けた。同社は国内の独立系受託製造企業としてトップクラスの地位を確立しており、小ロット多品種から量産までを一気通貫で対応できる品質保証力(QCD)が大手化学メーカーから極めて高く評価されている。この信頼関係に基づき、年間を通じて工場設備が高水準で稼働し続けたことが、増収効果以上に利益を押し上げる結果を生んだ。
(3) 生活衣料事業
生活衣料事業の売上高は6,323百万円(前期比9.2%減)、営業利益は438百万円(同25.3%減)と苦戦を強いられた。主力ブランドであるアンダーウェア「B.V.D.」は、長引くインフレによる消費者の買い控えや低価格志向、さらには主戦場であった量販店における衣料品売り場スペースの縮小という複合的な構造変化の直撃を受けた。加えて、タイ工場など海外生産への依存度が高い同事業にとって、歴史的な円安の進行や現地の人件費上昇、資材価格の高騰は原価率を悪化させる要因となった。高級肌着ブランド「アングル」についても、前期まで好調であった中国の富裕層向け販売が、日中関係の悪化など地政学的な要因により失速している。
(4) その他(化成品)事業
その他事業の売上高は2,930百万円(前期比7.3%減)、営業利益は98百万円の損失(前期は57百万円の損失)と損失幅が拡大した。化成品部門における医療機器用及びデジタルカメラ用部品の受注は堅調に推移したものの、業績悪化の主因となったのは金型部門(IPM等の連結子会社)である。自動車産業における電気自動車(EV)シフトの停滞や大手自動車メーカーの品質不正問題の影響により、主力顧客の金型需要が急減したことが響いた。この事態に対し、同社は抜本的な財務健全化策を実行している。
成長戦略を推進するうえでの健全な財務体質は盤石
3. 財務状況と経営指標
(1) 財務状況
2026年3月期末の財務状況は、資産合計が71,816百万円(前期末比5,208百万円増)となった。流動資産は、債権回収サイトの短縮等により売上債権が減少し、現金及び預金が増加した結果、前期比で増加した。固定資産は、研磨材事業や化学工業品事業における設備投資に伴う有形固定資産の増加等により46,235百万円(同4,679百万円増)となった。負債合計は、仕入債務の減少等により流動負債が13,305百万円となったものの、純資産の増加に伴い負債・純資産合計は拡大基調にある。純資産合計は51,691百万円(同4,231百万円増)となり、自己資本比率は72.0%と高い水準を維持している。
(2) 経営指標
有利子負債は低水準を維持し、強固な財務体質により中長期的な成長投資を推進する経営基盤は盤石である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水 啓司)
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