◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
※この論考は9月15日の< Xi Jinping’s US Visit: What Japan and Taiwan Should Watch in US-China Bargaining>(※2)の翻訳です。
習近平の訪米は、米中政府間の対立構造を変えるには至らないまでも、当面の緊張を和らげるだろう。日本と台湾にとって重要なのは、米中交渉が同盟関係、経済安全保障、地域の抑止力にまで影響を及ぼすかどうかだ。
9月24日頃と見られる習近平の訪米は、米中関係が改善に向かうのではないかという憶測を改めて呼ぶことになるだろう。ただ実際には、戦略的な競争が激化し、制御が難しくなっている米中関係を、両政府が再びある程度管理できる状態に戻そうとしていると見る方が適切だろう。
ドナルド・トランプは5月の北京訪問時、習の訪米は自身の訪中に対する返礼訪問だとはっきり位置付けていた。首脳の相互訪問は定期的な外交チャネルを回復させ、対立がコントロールできなくなる前に両首脳が直接交渉できる機会となるが、競争の根本原因が解消されるわけではない。半導体、人工知能、重要技術、サプライチェーンの安全保障、地域への影響力をはじめとする対立状態は変わらない。
首脳級外交の価値は、どこに交渉の余地があるかを判断することにある。経済紛争の中には、交渉を通じて調整できるものもあれば、国家安全保障政策と密接に結びついているため再び交渉の対象にするのは難しいものもある。現在の両国関係は戦略的対立と選択的交渉がないまぜになり、和解でも全面対決でもなく、管理された競争関係という様相を強めている。
トランプは目に見える政治的成果を必要としている
首脳会談の時期を考えると、トランプには国内向けに具体的な成果を示したいという強い動機がある。米国の中間選挙は11月3日で、会談のわずか数週間後だ。習と何らかの合意があれば、すぐに国内の政治論争の材料となる。
米国産農産物の大量購入、新たな投資の約束、市場アクセスの拡大、あるいは一部の関税面での譲歩に中国が合意すれば、トランプにとって有権者に直接アピールできる成果になる。それを輸出、投資、雇用、市場の信頼と結び付けて説明できれば、特に経済問題が選挙に影響を及ぼす分野や地域では政治的価値が高まる。
トランプはこれまで、ハイレベル外交を自らの交渉力の有効性を示す場として利用してきた。習と実質的な合意に至れば、従来の外交では得られなかった成果を直接交渉によって得られたと主張できる。中国政府もこうした動機を認識している。経済面で譲歩することで、トランプに国内向けの分かりやすい成果を与えれば、他の分野で米国政府から柔軟な対応を引き出す余地も広がるだろう。
外交上の象徴的な成果だけではトランプは満足しない。この首脳会談の政治的価値は、具体的で測定可能な成果を生み、それを自身の働きかけによるものとして示せるかどうかに大きく左右される。
習が求めるのは予測可能性
習の優先事項はこれとは異なる。中国政府にとって当面の課題は、関税、テクノロジー規制、重要鉱物、安全保障上の競争といった複数の分野の不確実性を一度に抑制することにある。これらの分野で同時に事態が深刻化すれば、国内の経済運営と長期的な産業政策の両方が困難になってしまう。
予測可能性が高まれば、中国政府は米国の圧力が強まりそうな分野と交渉の余地がある分野を区別できる。より広範な戦略的対立が続いたとしても、この区別は重要だ。
相互的な首脳外交は、中国が望む大国間関係のイメージにも資する。習とトランプの直接対話は、相違を乗り越えて首脳間で交渉すべきだとする中国政府の主張にも合致する。
このような両首脳の違いがむしろ合意の余地を生み出す可能性がある。トランプが政治的価値のある目先の成果を極めて強く求めているのに対し、習は経済やテクノロジーでの圧力が同時に拡大するのを阻止したいと考えている。両者の目的は異なるが、中国が目に見える経済的譲歩を示す代わりに、米国が政策の安定性を高めるという形で一致を見る可能性がある。
取引で成果があっても構造は変わらない
首脳会談の成果で最も期待を持てるのが経済問題であることに変わりはない。農産物の購入、エネルギー契約、投資の約束、市場アクセスを巡る措置、特定の関税引き下げはいずれも、米中ともに広範な戦略的立場を維持したまま調整可能な分野だ。
とはいえ、その成果の意義を過大評価すべきではない。中国による米国産大豆の追加購入は経済面で緊張緩和に寄与するだろうが、テクノロジーでの対立は変わらない。特定の分野の関税を引き下げても半導体に関する規制は依然として残るうえ、新たな投資協定を結んでも、人工知能、輸出管理、サプライチェーンの安全保障を巡る紛争の解決にはほとんど役に立たないだろう。
現在の両国関係は分野によって政策論理が異なる。貿易や投資においては交渉の余地が残されている一方で、安全保障上の懸念から先端技術が制約を受ける傾向は強まっている。首脳会談後の状況は、どの問題を交渉の場に戻し、どの問題を妥協しないかに左右されるだろう。
こうした不均衡は今後も続く可能性が高い。戦略的産業を巡る競争と特定のグローバル問題での対話が両立するように、テクノロジー規制と経済的融和も両立しうるのだ。
「習近平の訪米:日本と台湾は米中交渉のどこに注目すべきか(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
5月、北京を訪問して米中首脳会談を行なったトランプ大統領と習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7563
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