尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返す公船にしても、これまでは例外なく機関砲など固定武装を搭載しない非武装の船を展開させてきました。これが南シナ海との違いでした。中国人民解放軍の将官たちも、私に対して「日本に対して気を使っているからこそ、非武装の船しか出していないことを理解してほしい」と繰り返していました。
それが今回、1隻とはいえ武装した公船を繰り出し、そして1時間ほどとはいえ、領海侵犯させたというのは、何が理由なのでしょう。外交面での雪解けムードとは裏腹に、対日戦略上、大きな変化があったとでもいうのでしょうか。日本周辺での軍事的な緊張が高まるというのでしょうか。
そうではないと思います。中国の対日戦略に変化が生じたのではなく、これまで同様、国内の「反日」に名を借りた突き上げに対して、決して弱腰ではないと言い訳するために武装公船を領海侵犯させたのだと受け止めるべきでしょう。それは、武装公船を繰り出してきたタイミングを見れば明らかです。
12月24日、日本政府は来年度予算を閣議決定しました。防衛費は5兆541億円と初めて5兆円の大台を超え、その理由として「中国の海洋進出」に対する正面装備などの強化が挙げられたのですから、中国としても黙っているわけにはいかない。特に国内世論の弱腰批判だけは封じなければならない。そこで、初めての武装公船の投入になったのだと考えてよいのです。
海上保安庁の巡視船からの退去を求める呼びかけに対して、中国公船は「貴船はわが国の領海に侵入した。ただちに退去してください」と応答していますが、その言葉遣いにも対日強硬姿勢を窺うことはできず、むしろ「これでも気を使っているのを理解してね」と言っているようにさえ聞こえるのです。
新しい年は、少なくとも領海侵犯を許さないだけの強制力を備えた領海に関する法律を整備し、尖閣諸島の領有権についても国際法に基づいた主張をさらに明確にする日本に進化してほしいと期待する次第です。
image by: Wikimedia Commons
『NEWSを疑え!』より一部抜粋
著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
≪無料サンプルはこちら≫