スタバだけじゃない。実は知る人ぞ知る「BARの街」シアトルの魅力

 

 カクテル・メニューを眺める。「BARREL AGED COCKTAIL」なる文字。「樽で熟成したカクテル」だ。しかも脇には「Aged In-House」とある。「スピリッツをさらに自分で樽熟成させ、それを使用したカクテル」だろうか…。それならこれまでもお目にかかったことがある。

クリステンセン氏に聞くと、そうではない。「カクテルそのものを樽熟成させるんだ。つまり、一度作ったカクテルを樽に詰め、それぞれに応じた期間熟成させ、それを引っ張り出し、改めてビルドやステアでサーブするんだ」とのこと。さすがに「何年」単位で熟成させるわけではない。しかし、これまでに私自身、そのカクテルを試したことがあったかどうか、記憶が定かではない。

四の五の考えていないで、まずはオーダーしてみる。最初にチャレンジしたのは、「ダーティ・ブルバード(Dirty Boulevard)」。アメリカの代表的なライ・ウヰスキーである「オールド・オーバーホルト(Old Overholt)」のキナート樽で熟成したものに、カンパリ、オレゴン州ポートランドの「ハンマー&トング」社のスイート・ベルモットとともに、オーク樽で2か月寝かせた後に、それをステアし、サーブする一杯。

「クラシックなスタイルのものを作りたかったんだ」と氏が語るだけあり、どことなくマンハッタンをイメージさせるが、使用しているカンパリの苦味がきつくなく、しつこくない軽い甘味を感じさせつつ、オークの奥行きと深みがあり、得も言えぬ魔力を感じた。時差ボケボケていた私の頭も、こいつですっきりと覚める。

樽熟成したカクテルは、シアトルではポピュラーなのだろうか…クリステンセン氏に訊ねる。腕の立つバーテンダーやミクソロジストなら「待ってました。もちろん俺が発明したんだよ」ぐらいのセリフを吐きそうだ。しかし、気さくなクリステンセン氏は「うーん、確かにそんなに多くはないね。俺が初めてってわけでもない。ロンドンか、イタリアのバーテンダーが始めたという説だけど、色々と試してみると愉しいものだよ」と肩肘張らずに解説してくれた。「ボスはね、もっと大量に作ったら、樽だしで売れるんじゃないかなんて言ったりするんだけど、それは無理だよ」と苦笑してもいた。

帰国後、この手法は私が無知なだけで、すでにかなり世界では大人気かもしれない…と疑問がもたげ、銀座の超名店「毛利バー」で大御所・毛利隆雄氏に訊ねたがほお、そんなことするのですか」と巨匠の眉もちょっと上がった。いずれにせよ、「一般的な」カクテルとは言えないようだ。私のような一介の酔っ払いとして大発見でもある。調べると、東京でも池袋にこの技法を好んで使用するBARがあるそうだ。

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