【書評】万年赤字のローカル線「いすみ鉄道」を復活させた驚きの手法

 

ではなぜ、鳥塚社長はいすみ鉄道を残すのかというと、素直に「鉄道のある風景が好き」だから。鳥塚社長は、ローカル線を交通機関として正面から捉えていない。交通機関として考えたらバスで十分だから、そんな赤字の鉄道にいくらお金をつぎ込んでも無駄。「乗って残そう運動」などをやっても意味がない。だから鳥塚社長は、地域の人たちにも、「無理して乗らなくてよいですよ」と言っている。

「乗って残そう運動」を行うよりも、「ふる里の列車のある風景を守ろう運動」のほうが、より的確で理解しやすい。そして、テレビや雑誌のインタビューなどでも、鳥塚社長は「ぜひ乗りにいらして下さい」とは言わず、「乗りに来なくてもいいです」と言っている。

マスコミに宣伝してもらっても、実際に来た人はJRの観光列車と並列の目で見られて「こんなものか。JRに比べたらみすぼらしいな」と思う。「何もないから、乗りに来なくてもいいですよ」と宣伝することで、お客様は来る前にある程度覚悟してやってくるし、大した期待もせず、物見遊山でくるような一般の観光客はいなくなる。

JRなどの大手の鉄道会社は、100人のうち80人の獲得を目指すマスのビジネスだから、新幹線にファーストクラスを作ることがブランド化であると考える。しかし、地方の小さな鉄道会社であるいすみ鉄道では、昭和40年製のオンボロディーゼルカーを走らせることがブランド化になる。

しかも1両しかないオンボロディーゼルカーだから、たくさんの人が押し寄せてきてもさばききれないので「乗りに来なくてもいいです」と言う。電車には乗らなくてもいいから、電車の写真を撮りに来るだけでもいいから、いらした方は売店でお土産品を買って頂いたり、地域にお金を落として頂ければよいと考える。

日常生活の不要不急品、つまり「いらないもの」ほど、本当に価値がわかる人だけがお客様なので、値引きも必要ないし、遠くても買いに来てくれるし、競争相手もいないので宣伝も口コミで十分。

いすみ鉄道は、地元の利用者にとってみれば交通機関として必要なものだが、遠くから来る人にとってみれば「いらないもの」「なくても困らないもの」である。だからブランド化しやすいのである、と鳥塚亮社長は述べている。

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