尖閣「安保適用」確認にしがみつく日本の安全保障の危うさ

 

尖閣は今、平穏である

第1に、大前提として、中国が尖閣を軍事的に攻撃・占領したがっていて、それが日本にとって差迫った危機であるというのは本当なのか。

私の推測では、そもそも中国にそのような意図はなく(なぜなら軍事戦略的に無意味であるだけでなく、国際政治・経済的に百害あって一利もないから)、ましてやそれを足がかりに島伝いに沖縄本島から本土へと攻め上ってくるなどという作戦シナリオを描いてもいない(なぜならそんな作戦が通用したのは太平洋戦争までだから)。少なくとも当面、中国が尖閣に関して定着させたがっていることは、中国としての領有権主張は維持しつつも、ことさら荒立てることは避けて、事実上の「棚上げ状態を続けることである。

マスコミは、「中国公船が尖閣領海侵入を繰り返している」と言って危機感を煽るが、本誌が何度も書いてきたように、その実態を具体的に見ると、中国公船の動きは極めて抑制的なものであることが判明する。

● 15/08/10 No.797  『中国脅威論』に飛び移った安倍政権の軽はずみ
● 15/09/28 No.804  尖閣領海の近況のびっくり仰天

海上保安庁のホームページのトップに「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」というメニューが表示されていて、クリックするとグラフが出てくる。グラフの赤い棒グラフが尖閣の領海内に侵入した中国公船の月別隻数、青い折れ線グラフはその外側12カイリの「接続水域」に侵入した隻数であり、煩雑を避けるために前者のみを取り上げる。

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これを見ると、12年9月の野田政権による「尖閣国有化」以前には領海侵犯はほとんどなく、その月から跳ね上がって13年7月にピークに達し、丸1年が過ぎた10月に8隻まで減って、以後、今日に至るまで基本的に10隻を超えることなく横ばいで続いている。さらにグラフの下に月ごとに何日に何隻来たかの数字があって、それを並べると、奇妙なリズムがあることが分かる。最近1年間を見ると、このように基本は月3回で時に2回1回につき基本は3隻でたまに2隻か4隻。海保に訊いても「それだけ頻繁ということだ」と言うだけでそれ以上の説明はない(「月別回数と隻数」)。そこで知り合いの中国人記者を通じて中国側から取材すると、驚くべき実態が分かった。

領有権を主張している中国としては、最小限の行動を採って日本に対してデモンストレーションをするのは当然の立場である。

月3回になるのは、中国海警は北海(青島)、東海(上海)、南海(広州)の3管区に分かれていて、尖閣はそのうち東海管区が担当し、その下に浙江、上海、福建の3総隊があって各総隊が月に1回ずつ出すことになっている。

1回の行動で日本の主張する尖閣領海内に留まる時間は1時間半ないし2時間以内としている。

これらの様式は、中国側が一方的にルール化して実施していることではあるが、15年初からは日本海保に事前に「明日行く」と通告しているので、海保も「いつ来るか」と待ち構える必要がなくなって少し楽になったのではないか……。

つまり両当局間に馴れ合いによる事実上の領土問題「棚上げ状態がすでに現出しているということである。

なお、上掲グラフで16年8月だけが例外的に隻数が増えていることについては、すでに詳しく解説しておいた。

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