尖閣「安保適用」確認にしがみつく日本の安全保障の危うさ

 

3つの次元をごちゃまぜにする詐術

第2に、尖閣と米国との関わりに関しては3つの次元があるというのに、安倍政権もマスコミも、それをきちんと論理立てて国民に説明しないどころか、どうも意図的にごちゃまぜにして感情論を煽っている節がある。3次元とは……、

1.領有権問題

尖閣の領有権そのものについては米国は一貫して中立で、それは当事者である日中で平和的に解決すべきことだという態度を崩したことがない。

2.施政権問題

領有権で紛争中であろうと、日本が実効支配している以上、そこには日本の施政権が及んでいる。ところで、日米安保条約第5条は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と定めているので、何も大騒ぎをして「再確認」などするまでもなく、安保が尖閣を適用範囲としているのは自明の理なのである。

14年4月のオバマ来日の時には、安倍首相は何としてもそのひと言を言わせようと銀座の寿司屋で口説き、同意を取り付けた。それをマスコミは「オバマ大統領が明言」と大見出しで報じたが、オバマはシラケ切っていて、翌日の共同会見で聞かれて次のように述べた。

● 14-04-28 No.729 日米首脳会談:虚飾の中の齟齬

この同盟に関しては、日本の施政下にある領土はすべて安保条約の適用範囲に含まれているという標準的な解釈を、歴代の米政権が行ってきた。……同時に私が首相に申し上げたのは、この問題に関して事態がエスカレートし続けるのは正しくないということだ。日本と中国は信頼醸成措置をとるべきだ。

我々も外交的にできる限りの協力をしていきたい。米国の立場は、どの国も国際法に従わなければならないというにあるが、国際法や規範に違反した国が出てくるたびに、米国が武力行使しなければならないというわけではない。

私が会談で強調したのは、平和的に解決することの重要性だ。言葉による挑発を避け、どのように日中がお互いに協力していけるかを決めるべきだ。米国は中国とも非常に緊密な関係を保っており、中国が平和的に台頭することを支持している。

安倍首相の「日米が結束して中国を抑えましょう」という幼稚な反中国姿勢にオバマがいかにウンザリして、「お前、いい加減に目を覚ませよ」とたしなめるような口調で語っていることが伝わってくる。なのに、性懲りもなくこのひと言を大統領の口から言わせようという涙ぐましい努力をしているのが、我が政府・外務省である。

ところで、竹島と北方4島は、日本の領土であっても実効支配が及んでいないので、安保の適用範囲ではない。12月のプーチン来日で領土問題が1ミリも動かなかった最大の壁も実はここにあって、1島だろうと2島だろうと日本に渡せばそこは安保の適用範囲となって、米軍が基地を作りたいと言えば属国=日本としては断ることができない。それを拒むだけの腹づもりがあって島を返せと言っているのか? というのがプーチンの深い問いかけで、その答えを安倍首相が用意していないが故に日露首脳会談は失敗したのである。

3.米軍参戦

尖閣にせよどこにせよ、対日侵略があったとして、安保の適用範囲だからといって米軍が自動的に日本に対して集団的自衛権を発動して出動・来援するとは限らない

安保条約第5条が「(米国が)自国の憲法上及び手続きに従って」と書いているのは、米国憲法が第1条8-11で議会に宣戦布告権があると定めているからであり、また現在では、ベトナム戦争がその議会の権限を無視して始められて泥沼化したことの反省に立って73年に「戦争権限法」が成立しているので、その制約も加わって、最高司令官である大統領といえども簡単には戦争を始められない。

さらに、手続き面だけでなく、尖閣という米国にとって何の興味もない岩礁の争奪戦に参加することで米中全面戦争にエスカレートするリスクが生じる訳で、それを冒すに値する事態であるかどうかという戦略的な判断は慎重に行われて当然で、普通の常識で考えれば、米国は尖閣ごときのために軍を動かすことはまずあり得ない

上掲のオバマの言葉もそれを示しているが、その2カ月前の14年2月10日にはアンジェレラ在日米軍司令官(当時)が日本記者クラブで記者会見し、日中がもし軍事衝突したら米軍はどうする? という問いに対してこう答えた。

● 14-02-24 FLASH No.031 尖閣で紛争があっても米国は介入しない

衝突が発生することを望まない。仮に発生した場合、救助が我々の最重要の責任だ。米軍が直接介入したら危険なことになる。故に我々は各国指導者に直ちに対話を行い、事態の拡大を阻止するよう求める。

さらに重ねて「中国軍が尖閣を占領したら米軍は?」と問われて、司令官は答えた。「そのような事態を発生させないことが重要だ。もしそういう事態が発生したら、まずは日米首脳による早期会談を促す。次に自衛隊の能力を信ずる

本当はこういうことであるのに、1.2.3.をごちゃ混ぜにして、米国が尖閣についての日本の立場を全面的に支持していて、いざという時には必ず日本と共に血を流して戦ってくれるという盟約が成立しているかに内外に印象づけようとする、これは明らかな詐欺の手法である。

print
いま読まれてます

  • 尖閣「安保適用」確認にしがみつく日本の安全保障の危うさ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け