国民から受信料を徴収して経営するNHKは、まさしく市民社会の「公共」を守るために存在する。国家権力から独立して、市民共通の自由な情報空間を形成することが求められる。それこそが放送法に謳う「自律の保障」であろう。
NHKの記者が前川氏にインタビューして得た映像、音声は、国民の財産なのである。文科省の前事務次官が、現政権の政策決定過程に疑義を申し立てているのに、それを握りつぶすのは国民への背信行為であろう。
自民党政調会に「情報通信戦略調査会」という組織が2014年につくられた。何を調査するのか疑問だが、早い話、メディアを監視し、クレームをつけて、報道に圧力をかけるのが主目的といえる。
しかも、委員16人のうち、大多数が安倍首相を教祖のごとく祭り上げる神道政治連盟国会議員懇談会や日本会議国会議員懇談会のメンバーだ。
情報通信戦略調査会の存在が広く世に知られたのは2015年4月17日に起きた「放送弾圧事件」によってである。
テレビ朝日の「報道ステーション」における古賀茂明氏の官邸批判発言とNHK「クローズアップ現代」の「やらせ」問題をやり玉に挙げ、テレビ朝日とNHKの経営幹部を自民党本部に呼びつけて、「事情聴取」におよんだ。気に入らないコメンテーターやキャスターへの威嚇が目的である。
その後、古賀茂明氏やクロ現の国谷裕子キャスターが降板したのは周知のとおりだ。
こういう言論状況のなか、NHKが安倍首相の意のままになる政治部の呪縛から解き放たれるには、個々の記者に残っているはずの良識を結集し、内部改革を断行するほかないだろう。
蛇足ながら、読売新聞に期待することは何もない。記事の質を軽視してきたこの新聞は国家権力にすがるしか生き残るすべがないのではないか。
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