なぜ、年金の受給額はなかなか上がらないのか? 給付金の歴史を追う

 

今はまだ、その保険料の中では年金給付が過剰だから、保険料収入と年金負担が均衡するまで毎年自動で年金給付を抑制するマクロ経済スライドが導入されている。年金は基本的には物価や賃金の伸びに合わせて引き上げられますが、同じ率に上げない事により、徐々に保険料と年金給付が均衡する所まで持っていくもの。

ちなみに前年の年金給付は約57兆円でしたが、保険料収入約40兆円、税金(国庫負担)11兆円、今約150兆円ある年金積立金から補助的に5兆円前後で年間の年金給付を賄っている。税金を使っているのは基礎年金の半分を負担する事が決められているから。税金が投入される事により保険料負担が軽減されるため。保険料をそのままその年の年金受給者に送るやり方を賦課方式と言いますが、実際は税金や積立金も給付に充ててるから修正賦課方式という。

平均余命が今後も延びるし、現役世代は減るという年金制度を圧迫させる要因を数値化(マクロ経済スライド)して、物価や賃金の延びからマクロ経済スライド率を引いていく。例えば物価は2%上がって、賃金が3%上がれば、通常は物価上昇分を年金額に反映させるが、仮にマクロ経済スライドが0.7%だったならば、物価2%からマクロ経済スライド0.7%引いて年金額の伸びは1.3%に抑える。これを繰り返しながら、年金給付と保険料収入が均衡して安定する所まで持っていこうとしている。

しかし、平成16年に導入されて、マクロ経済スライドによる抑制は2023年で終了してそこで均衡するはずの予定が、更に10~15年くらい延びてしまう事になってしまった。なぜかというと、平成27年までに10年間一度もマクロ経済スライドが発動されなかったから。原因として、経済の停滞で物価も賃金も上がるどころかマイナスとかが続いたから発動できなかったというのもありますが、もう一つ問題がありました。

それは、平成11年から平成13年までに物価が1.7%マイナス(→平成11年0.3%、平成12年0.7%、平成13年0.7%)になったにも関わらず、その分翌年度の年金を引き下げなければならなかったのに引き下げずに据え置いた為に平成27年になるまでに年金を本来の水準より高く払い過ぎていたんです。本来は年金は物価に連動するから、物価が上がった時ばかりでなく、下がった時は下げなきゃいけなかったのに下げずに年金額を据え置いたんですね。

この年金の払い過ぎを解消しない限りマクロ経済スライドは発動できない事になっていた。年金の払い過ぎは平成23年までに累計7兆円で、平成24年度までに当時の1.7%から2.5%まで拡大し、毎年1兆円規模で膨れ上がる状態になってしまった。

だから、平成25年10月に1%、平成26年4月に0.7%(1%下げるつもりだったけど0.3%物価が上がったから0.7%下げ)、平成27年4月に0.5%年金の過払い分を引き下げて過払い解消と同時に平成27年度にやっと初めてマクロ経済スライドが発動したんですね^^;。年金受給者の方はこの平成25年からちょっとずつ年金額が下がっていったから記憶に新しいのではないでしょうか。過去の払い過ぎを解消する為だったんです。

マクロ経済スライドで早く、給付(年金)と負担(保険料)を均衡させつつ、年金受給者の支え手である現役世代の賃金の伸びに合わせる事が大切なんですね。平成30年度からは、その年のマクロ経済スライドが発動できなかった分は翌年度以降に繰り越されて強化される。例えば、物価1%上がって、賃金は0.7%上がったら賃金の0.7%を年金額に反映させますが、マクロ経済スライドがこの年に0.9%だったら0.7%-0.9%=マイナス0.2%残りますよね。マクロ経済スライドは年金そのものを下げないから、その余ったマイナス0.2%は翌年度以降に繰り越されるという事。仮に翌年度のマクロ経済スライドが0.6%なら更に0.2%足した0.8%を用いる。また、完全に賃金変動に合わせるのは平成33年4月から

というわけで経済が成長してる時は年金を上げる攻めの方向で良かったんですが、経済が停滞期に入ってからは給付を抑制して保険料負担が過剰にならないように、保険料収入の中で給付をするという守りに入ってるわけですね~。だから、一番の要因は時代の変化経済の停滞と少子高齢化が年金を上げさせない要因となってるわけです。

破綻している年金制度はやめちまえ!で本当に撤廃したらどうなる?(まぐまぐニュース参考記事)

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
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