自分が客になって分かった不満の数々
末端にいる社長が、どれだけお客様に喜んで頂けるサービスを提供できているか、を把握するには、自分がお客様になってみるのが、一番だと宮端さんは考えた。自腹を切って、はとバスのツアーに参加するのである。
宮端さんは「私は休みの日に月3回、女房を連れて、はとバスに自腹を切って載る」と宣言し、幹部にも、月1回でいいから自腹で乗るよう要請した。
これは「目から鱗(うろこ)」と思うほど、多くのことを学ぶことができた。バスに乗っていると、隣や後ろの座席から、こんな声が聞こえてくる。
「あの観光ポイントは大したことなかったわね。別になくてもいいわよね」
「いいところなのに、もうちょっとゆっくり見たかったわ。やっぱりバスツアーはせわしないわね」
特に食事については不満が多く、「お味噌汁がぬるい」「天ぷらが冷め切っている」といった声が、食事の間中、漏れ聞こえてくる。
某メーカーの調査によると、そのメーカーの製品に対し、不満・苦情を感じた人のうち、メーカーに直接不満をぶつけてくる人はわずか6.8%。残りの93.2%は、何も言わない代わりに、その会社の製品を使わなくなる、と言う。
とすれば、お客様を増やすのは簡単だ。こういう不満を一つ一つ解決して、この次もまた、はとバスに乗りたい、という人を増やせば良い。それは、「お客様の喜ぶ顔がみたい」というガイドさんの気持ちを、そのまま経営として実践するだけのことだった。
「お客様が選ぶ日本一にならなければダメです」
こうした努力が実を結んで、宮端さんが社長に就任して4年目には「プロが選ぶ観光バス30選」で日本一に選ばれた。発表の翌日にたまたま研修があったので、「ありがとう。皆のおかげで日本一になった」と、感謝の気持ちを込めて挨拶をした。
すると、あるガイドさんから、その日のレポートとして次のような指摘があった。
社長、これで有頂天になっていてはいけません。そんなものは、大事故でも起こせば一夜にしてひっくり返ります。「プロが選ぶ日本一」になるのも結構ですが、本当は「お客様が選ぶ日本一」にならなければダメです。
(同上)
これには、宮端氏も「参った!」「あっぱれ!!」と感じた。日々、現場でお客様を喜ばせられるか、真剣勝負をしている「先端」の社員ならではの指摘であった。