「私は、お客様の喜ばれる顔が見たくて、この仕事を続けています」
宮端さんは「お客様第一主義」を経営方針に掲げたが、その本当の意味教えてくれたバス・ガイドがいた。地方の高校を卒業して、上京してはとバスに入社したというガイド歴3年の22歳の女性だった。
お客様からの評判が大変良く、勤務成績も良いので、この先も頑張って欲しいと、社長表彰をする事にした。宮端さんは、彼女に直接感謝の気持ちを伝えたくて、勤務が終わった後、役員室に来て貰った。
「あなたの働きに感謝しているよ。ありがとう。朝も早いし、夜も遅い。週末も忙しい。これじゃデートもできないでしょう。それはよく分かっているけど、辞めないで、これからも頑張ってほしい」
とお礼を言った後で、何の気なしに彼女に聞いてみました。
「あなたは地方からわざわざ出て来て、はとバスに入社してくれたんだけど、なんでバスガイドの仕事を続けているの?」
するとその22歳のガイドは、数秒ほど考えた後、こう言ったのです。
「私は、お客様の喜ばれる顔が見たくて、この仕事を続けています」
はとバスのツアーに参加されたお客さまが、ツアーを楽しんで下さり、「ありがとう」「よかったよ」と言ってくださる。給与でもなく、待遇でもなく、「お客様の喜び」が仕事を続ける原動力になっているというのです。私は頭をガツンと殴られたような気分でした。
(同上)
彼女のように「お客様の喜び、感動を、自分の喜び、感動にできる人がサービスのプロ」だと宮端さんは思い知った。それが本当の「お客さま第一主義」だと教えられた。
現場の社員は「末端」ではなく「先端」
このガイドさんや、あるいはお客さんのために重い踏み台を出し入れする運転士さんたちが、現場の最前線で、お客様の喜びを作り出す。
「愛されたことのない人間は、他人を愛することができない」といいますが、現場でお客様に接している乗務員も同じ事です。「会社から自分が扱われている以上には、お客様を扱わない」のです。
お客様第一主義を徹底するために、現場で日々お客様と接している乗務員を大切にしなければならない。こうした意識を乗務員以外の社員に浸透させるために、そして乗務員には自分たちが大事にされていることを感じてもらうために、組織図を逆三角形に置き換えました。
(同上)
逆三角形の組織図とは、一番上にはお客様がおり、その下にお客様にサービスをするガイドや運転士がいる。彼らをその下で支えるのが、課長や部長であり、一番下に社長や役員がいる。
現場の最先端でお客様に直接サービスをしている従業員が、思う存分、働いて貰えるよう支えるのが、課長や部長、そして社長の仕事だ、という考え方である。
しかし、組織図を逆さまにしただけでは、人々の意識は変わらない。宮端さんは、社内で「末端」という言葉を使うことを禁じた。ある役員が、今までの意識のまま「この計画を末端まで周知徹底して行います」と言った時に、宮端さんは「何を言っているんだ」と一喝した。
末端は社長であり、お客さまと接する現場の社員は「先端」なのです。現場にいるガイドや添乗員たちは、社長や役員に代わって、毎日お客様から叱られています。お客様から叱られて泣き、褒められて泣きながら成長しているので、意識が一番高いのです。彼らこそ、会社の先端なのです。
(同上)