中国への負けは認めたくない。安倍官邸が原発輸出を諦めない理由

 

ベトナムへの原発輸出がいったん決まったさいの条件は、「原子炉建設、運転・保守、燃料確保」を日本が引き受けることに加え「低利融資」をセットにして、丸抱えする仕組みだった。

それでもベトナムはこの甘い話に最終的には乗らなかった。原発建設費用は当初見積もられていた1兆円から2.8兆円以上に上昇、発電単価が当初の約4.9セント/kWhから8セント/kWhにまではね上がっていた。

2016年11月22日、ベトナム議会は約9割の賛成で原発計画中止を決定した。理由として挙がったのは

  • 原発には経済的競争力がない
  • 対外債務の深刻化
  • 核廃棄物の処理問題

―などだった。

ベトナムは賢明な選択をしたといえよう。輸出元の日本でさえ、核廃棄物の処分方法に困り果て、使用済み燃料の再処理、核燃サイクルという欺瞞的な解決方法を掲げて原発の温存をはかっているのが実情だ。

経産省が幅を利かす安倍官邸。ベトナムの衝撃は大きかった。ほかにも、トルコで三菱重工業、リトアニアで日立が建設を受注しているが、住民の反対で計画が行き詰っているのだ。英国への原発輸出には、このような状況への焦りがにじむ。

だが、われわれ国民から見ると、かりに東芝のように巨額の損失を出した場合、政府が補償し血税が使われるというのは、どうしても納得がいかない。

そこまでして原発輸出にこだわる理由をじっくり考えてみたい。

第一は当然のことながら、原発産業の救済である。福島原発事故の後、日本国内で原発を新設するのはほとんど不可能な状況だ。三菱重工、日立、東芝など原子炉メーカへの需要をつくるには海外進出しかないという事情がある。

次に、中国が原発輸出を積極的に進めようとしていることへの危機感だ。

イギリス南西部のヒンクリーポイントで計画されている原発事業は、事業主体こそフランス電力公社だが、総事業費の3分の1を中国企業が出資することになっている。

ただし、すんなりと決まったわけではない。英国としては中国原発への不信感や、安全保障上の問題を考えざるをえない。キャメロン政権下の2015年秋に習近平国家主席が訪英したさい、中国企業が加わることになったのだが、翌2016年7月に就任したメイ首相は最終契約直前になっていったん白紙に戻してしまった。

案の定、中国側は「中英関係は重大な歴史的岐路にある」と猛反発。EU離脱を控えアジアの大国との関係悪化を避けるため、メイ首相は同年9月、中国が参加するヒンクリーポイント原発の建設計画に渋々サインしたという経緯がある。

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