中国への負けは認めたくない。安倍官邸が原発輸出を諦めない理由

 

ついでながら、なぜ英国は他国に原発建設を依頼しなければならないのかについて、触れておこう。

英国では1995年に運転を開始したサイズウエルB原発を最後に原発の新設がストップした。電力自由化により、電力会社の経営が不安定になったため、原発建設という巨額投資ができなくなったのだ。そのため原発メーカーの仕事がなくなり、しだいに技術者がいなくなっていった

日本の経産省からすると、英国の二の舞にならないよう、外国に売ってでも技術を維持したいということになるのだろう。

一方、中国は福島第一原発の事故をきっかけに世界の原発建設が中断するなかで、いち早く工事を再開し、目下すでに13基の原発が稼働、29基もの原発を建設中であり、今後10年で60基を建設する計画を明らかにしている。

こうした中国の動きに日本政府が苛立っているのは間違いない。そもそも隣の大陸にどんどん原発をつくられるのは安全面で不安だが、政府は中国の覇権主義的な海外進出が原子力分野でも進むのではないかと警戒感を募らせる。

安倍政権の「富国強兵」的な政策からすると、原発からの撤退は、中国との競争における敗北ということになるのだろう。これが、再生エネルギー重視への政策転換を妨げる足かせになっている。

そして、もうひとつ検証しておかねばならないのは、核兵器と原発の関係だ。日本が原発に執着するのは核兵器製造の道を残しておきたいからという説がある。しかし、商用発電の原子炉は軽水炉であり、その使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは核兵器に適さないという理由で、それを否定する見解もある。

これら両論を整理しておきたい。まず否定論だが、なぜ軽水炉の使用済み燃料ではだめだというのか。ちょっとだけ詳しく説明しておこう。

低濃縮ウランからなる核燃料を原子炉で「燃焼」させると、ウラン238が中性子を吸収することでプルトニウムが生成される。再処理はそのプルトニウムを抽出する処理である。ただその再処理で抽出されたプルトニウムは、核兵器に使用されるプルトニウム239の割合が60%ていどで、あとの40%ほどはプルトニウム240だ。

プルトニウム240が7%以上含まれると、不完全核爆発(過早爆発)を起こしやすいため、そのまま核兵器には使えない。7%以下にするためには、分離精製する必要があるが、それはコスト面技術面からみて無理であり、事実上、原発の使用済み核燃料から核兵器をつくることはできない。

軽水炉でなく、減速材に黒鉛(炭素)を用いる黒鉛炉なら、プルトニウム239の
純度を十分高くできる。実際、北朝鮮も黒鉛炉でプルトニウムを生産している。日本の原子炉は全て軽水炉だ。

否定論者の言い分は、だいたい以上のようなものであろう。

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