元引きこもりの哲学者・小川仁志が断言。哲学は人生に奇跡を呼ぶ

2018.04.02
 

私がアメリカに行ったのは2011年です。渡航直前にあの東日本大震災が起こりました。日本が大変な時期にアメリカに行くのはうしろめたかったのですが、仕方ありません。でもその状況が、かえって私の日本愛に火をつける結果となりました。海外に行くとただでさえ日本の良さが見えてくるものです。ましてや日本が一番頑張っている姿です。そのとき私は、哲学者としてもっと日本の思想を学ぶべきこと、そしてそれを海外に向けて発信しなければならないことを痛感しました。それが帰国後、日本思想に関心を振り向ける原因になります。

足かけ8年ヨーロッパに留学していた日本の哲学者・九鬼周造は、まさに西洋との比較の中で、日本独自の素晴らしい概念に目を向け、独自の日本哲学を提唱しました。たとえば、「いき」という概念に着目した『「いき」の構造』がそれです。九鬼は「いき」は欧米の言葉では表現できないといいます。私も同様に、「お互いさま」や「となり性」という厳密には欧米の言葉に翻訳できない日本独自の概念に着目し、論文や本を書きました。

アメリカでは、そうした研究に加え、人脈を広げることにもかなり力を入れました。これは現地にいないとできないことです。自分を磨くためにもできるだけ偉大な人に会って教えを請うようにしました。いつものダメ元で。幸いプリンストン大学には著名な研究者がたくさん在席していました。私に部屋を貸してくれていたのは、世界的に有名な哲学者ピーター・シンガーでした。おかげで結構彼と話をする機会を持ちました。

黒人のカリスマ的指導者といっていいコーネル・ウエストも当時プリンストン大学に所属していたので、何度か話す機会がありました。行動する知識人のモデルとして、崇拝する人物です。ウエストはいつでも死ぬ覚悟があるという意味で、黒装束をトレードマークにしています。私も彼をリスペクトしているので、真似をしたいと思っています。そうしたことから、最近はできるだけテレビなどでも黒のスーツを着るようにしています。

学外でも、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授に会いに行ったり、テレビコメンテーターとしても有名な宗教学者レザー・アスランに会いに行ったりしました。有名人だけではありません。同年代の研究者たちともよく飲みに行きました。特に同じ時期に世界中からサバティカル(研究休暇)でプリンストンに来ていた人たちは、同期みたいなものです。同期がいかに大事かは、3度の就職でよくわかっていました。案の定、彼らとは今も友達で、自国に呼んだり向こうに呼ばれたりと、お互いにグローバルに活躍するきっかけになっています。昨年アメリカのシラキュース大学で短期ですが客員研究員をやったのも、そうした縁によるものです。

こうして実り多い1年が過ぎたあと、私はまた日本に戻り、今度は従来の「哲学カフェ」などの活動に加え、グローバル教育と日本思想の研究を始めます。これは大きな変化でした。英語での授業やイベントを始めたのもこのころです。日本思想については、日本哲学の本を出すだけでなく、海外で日本思想を研究する学会で発表するようにもなりました。

帰国後、私の活動はますます広がり、朝日放送でニュース番組のコメンテーターをしたり、ベストセラーの本を出したり、ついには国会にも呼ばれます。参議院の憲法審査会です。国会の常会に「哲学者」という肩書の人が呼ばれたのは初めてだといわれました。私はそこで哲学教育の重要性を訴えました

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