そんな充実したある日、知人から山口大学にグローバル教育をする新しい学部をつくるので、来ないかとの誘いを受けました。徳山高専に赴任して以来、すでに8年が経とうとしていました。周南市とは行政だけでなく市民ともかかわりが深くなっており、「哲学カフェ」も根付いていましたが、同じ山口なので移ってもなんとか続けていけると思いました。そこで、誘いを受けることにしたのです。グローバル教育を本格的にやってみたいという思いもありました。
そうして3年前の春、私は山口大学の国際総合科学部という新設学部に転職することになります。ここでは英語で哲学の授業をするだけでなく、グローバルな活動もやることになりました。たとえば、自治体が台湾からの観光客を誘致するためのプロジェクトを支援する活動です。これが卒業研究の一つなのです。不思議なもので、また台湾との縁ができました。
私は再び懐かしい台北に飛び、調査を開始しました。このプロジェクトでは、私の人生のいろんなことが生きています。まず商社マン時代に学んだ中国語、商社のツテ、さらに市役所で培ったまちづくりの知識と経験、公共哲学者として本質から考える能力等です。結果を出すのは今年ですが、かなり面白いことができるのではないかと今からワクワクしています。
台湾との関係が再び始まったことで、向こうで大きな地震が起きたときには、学生たちと大々的に募金活動も行いました。すると、これも御縁があって、台湾の国会にあたる立法院に招待されたのです。久しぶりに台湾メディアにも出演しました。おそらく台湾との縁はこれからも一生続くものと思われます。
さらに、山口大学に移ってからは、テレビでの活動も広がっていきました。NHKの「あさイチ」やEテレの「100分de名著」などにも出たことで、ついには「世界の哲学者に人生相談」というEテレの新番組にレギュラー出演することになったのです。哲学の番組なんてそれ自体が画期的なのに、そこに指南役としてレギュラーで出演できるとは!
テレビに関してはもうこれがピークかもしれません。でも、そんなことはどうでもいいのです。私のこの10年の軌跡はまさに奇跡の連続でした。その奇跡が可能になったのは、その土台に哲学があったからだと確信しています。したがって、これからも哲学が土台にある限り、私の人生には思いもしない奇跡が起きるはずです。それが哲学に出会い、人生を変えてきた私の実感です。哲学にはそんなすごい力が秘められていると。
だから私は、いつも哲学のススメを説いているのです。とはいえ、四六時中哲学する必要はありません。哲学は時々でいいのです。人生には楽しいこと、ほかにやるべきことがたくさんあります。私にとってもそうです。山口の自然の中で、ぼうっと美しい景色を見る時間も素敵です。子どもたちと過ごす時間も大切です。でも、そんな中に哲学があるのとないのとでは大きく違ってくるのです。だから、人生に時々哲学を……。
毎回長文を読んでいただき、ありがとうございました。皆さんとの出会いにも感謝です! これからも哲学と小川仁志をよろしくお願いいたします。
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