台湾人の美徳とされる「日本精神」が、日本人から失われ始めている

 

しかし、社会の変化とともに、日本人の間でこの武士道精神が失われつつあるのではないかというのが私の感想です。日本社会にも貧富の差がだんだんと表面化してきており、大人だけでなく子供の貧困も社会問題化しています。それに加えて核家族化が進み、代々受け継がれてきた概念がだんだんと希薄になる、または断絶してしまっています。

そして、家庭環境の多様化で、貧困家庭では子供の家庭教育をまともに行わないケースも多く、そうした環境で育った子供は大人になっても道徳観念を持つことができません。ましてや無戸籍の日本人は学校にいくことさえありません。また、富裕層にも問題があり、国際化の波を受け、これからは英語の時代だという時代の潮流に流され、幼少期から子供をインターナショナルスクールに通わせる、または海外移住することで、日本人としての教育が抜け落ちてしまう危険性もあります。

今、公開中の映画『万引き家族』はそうした日本の貧困などの実情を、リアルなまでに映画化したものでしょう。貧困なのは主人公の家族(のような集団)を取り巻く金銭問題だけではありません。金銭を得るためのモラルの崩壊、無感情、警察官の無理解からくる傲慢な言葉、人として求めるものを得られない日本社会のあり方など、様々な問題を包括しています。

是枝裕和監督最新作『万引き家族』公式サイト

この映画は、皆さんご存知のようにカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞しました。それは裏を返せば、この映画が取り上げている様々な日本社会の問題について、世界各国も同じように直面して同じように悩んでいるからこその理解であり、共感だったのではないでしょうか。

是枝監督は社会派の映画監督として、これまでも様々な問題を映画化してきました。中でも、巣鴨子供置き去り事件をモデルにした『誰も知らない』という映画は、『万引き家族』同様に日本社会の闇の部分にスポットをあてた作品です。育児放棄やネグレクトまではいかないまでも、離婚率の上昇によって片親家庭が増え、食事はスーパーの惣菜や冷凍食品という家庭はとても多いでしょう。

こうして、ぬか漬けを知らない子供たちが成人する。そんな少しの変化が累積して、日本社会は今のような状況になっています。昔はよかったというつもりはありませんが、日本人が日本精神を忘れ去ったその先にあるものは、明るい未来なのか、それとも違うものなのか。それを想像し、日本は今何をするべきなのかを判断してほしいと願うばかりです。

大学受験改革や、小学校からの英語の授業導入もいいですが、国際社会も同じような問題に直面しています。子供が育つ環境をどう整えればいいのか、そして子供に何を受け継いでいくべきなのかを決める前に、日本はもういちど立ち止まって日本人としてどうありたいかを再考すべきではないでしょうか。

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