台湾は九州ほどの大きさの島で、人口約2,357万人であることからも、本の市場がそれほど大きくはないことは明白です。また、日本文化を受け入れる素地ができているため、ファッションやグルメが日本の流行をリアルタイムに受け入れているのと同様に、漫画や小説なども日本からの翻訳本が多く、ドラえもんを知らない子供はいないほどです。
逆を返せば、オリジナルのコンテンツが少ないのです。台湾の出版社である青文出版社の黄詠雪総経理を取材した記事によると、台湾では「2010年以降、市場規模は小さくなり、盛り返すことが期待できない状況が続いています。2014年の市場規模は227億NTDとピーク時の4割減です」ということです。また、以下も一部引用です。
出版社側の電子書籍に対するマインドが日本を含めたアジア諸国の中でも非常に消極的なのが大きな違いです。電子書籍に対する取り組みがとても遅いんですね。
その大きな理由が、書籍に占める翻訳タイトルの多さです。4万2,000点のうち半分以上が教科書・参考書で、その4分の1は翻訳書。セールスランキングの上位70%も翻訳書が占めています。台湾オリジナルのタイトルは少ないです。
このことが電子書籍化に当たってハードルになります。台湾で生まれた=自分たちで生みだしたタイトルであれば電子化も比較的容易ですが、外来の書籍ではそうはいきません。
● 台湾の電子書籍事情から見えてくるもの 大手出版社の若手社長はこう考える
どうやら台湾の出版界は、様々な理由で電子書籍には消極的なようです。とはいえ、それでも電子化は確実に進んではいます。ただ、台湾の市場はやはり小さい。
付き合いのある日本の出版社の担当者から、台湾支社を出したいと思うがどうかといった相談を何回か受けたことがあります。そんな時、私は躊躇なく率直に答えます。やめたほうがいいと。理由としては、漢字メディアの市場はそれほど大きくないということ。台湾では、政治家や大学教授でさえあまり本を読みません。若者はいまやネット世界の住人です。いくら本を出してもそれほど売れません。
そんな状況を変えようと、私はかつて「国民文化運動」という読書運動を推進したことがありました。世界各国の同志たちから寄付を集め、文庫を百冊つくることを目指したのです。しかし、最初のころこそは初版2,000部でしたが、それが500部になり、あっという間にいくら寄付金を集めても赤字補填に追いつかない状況となってしまいました。それほど本は売れませんでした。
具体的な数字を見てみると、宗教系出版物を含めても、2016年度の台湾出版業界の総売り上げは150億台湾元(約500億~600憶円)でした。ちなみに日本の出版市場の規模は紙の書籍と雑誌で1兆3,700億円程度(2017年)です。
台湾人の1週間の読書時間は5時間、日本人は4.1時間で、台湾人のほうがわずかに上回っていますが、それでも主要30カ国中で29位。ちなみに日本は30位だということです(2016年)。
中国でも出版不況は深刻です。中国で出版されている華字新聞や華字雑誌の多くは、中国の人民解放軍がメディアを牛耳るためのものであるため、内容がつまらなく、誰も読まないからです。そのほか、今はネットでのフェイクニュースも多く流れているため、台湾では「鳥龍(ウーロン)消息」(フェイクニュース)と言って信用されていません。
そもそも中国は人間不信の社会ですから、メディアさえ信用しないのが普通です。また、中国では言論統制があるため、メディアは人民を騙すためにあるようなものです。ネットユーザーは監視され、アクセス統制もされています。政府系メディアは、習近平体制内部のいいなりです。
中国では政府当局によって、出版社ごとの年間刊行点数が決められています。しかし、「中央に政策あれば地方に対策あり」と言われるように、政府の抜け穴をみつけて対抗しています。例えば、出版社一社につき年間の出版10点までと決められたら、10点すべてをシリーズ化して「続」「続々」という形で出していくのです。
一応、先の読書時間ランキングでは、中国人の1週間の読書時間は8時間で30カ国中で3位となっています。しかし、そのような統制に加えて、海賊版も溢れているため、金を払ってまで読もうという人がいないわけです。だから真の意味でのコンテンツ分野がなかなか成長しない。