理由は今週初めに出たトルコの統一地方選挙の結果を見れば、トルコ、特にエルドアン氏の力の基盤の弱体化が見て取れます。一応、全体では52%弱の得票率で第1党を保ちましたが、首都アンカラと経済の中心であるイスタンブール市の市長選で敗北したことは、エルドアン氏の求心力が著しく悪化していることを示しています。
「政治的な安定と地域の盟主という立場よりも、まずは経済的な立て直し」を国民は選んだというわけです。アメリカおよびその同盟国からの経済的な制裁が効き始め、かつトルコ・リラに対する攻防で苦戦を強いられていることで、トルコ経済の成長は一気に減速していることに、国民がNOを突きつけたと言われています。そのことで、エルドアン氏の支持基盤の弱体化が起き、それが直接的にトルコの地政学的な重要性の低下を招いたと思われます。
言い換えると、これまで地域で起こってきた様々な緊張を抑えてきた力が、もうトルコにはないということです。それは、同時に中東地域、そして北アフリカ地域に及んでいたバランサーとしての機能が不全に陥る恐れがあり、地域的な武力衝突や緊張を抑えてきた防護網が崩れ去る恐れがあるということとも理解できます。
まだ、アルジェリアとトルコの状況を見ただけでは、今後の北アフリカ地域と中東の状況を予測することは難しいのですが、比較的短期間に大きな変動をもたらすような動きに見舞われる可能性が高まってきたように思えます。
この地域は安部外交において、関係を改善し、日本の新たなフロンティアとなろうとしていますが、そのグランドデザインが根本から崩れ去る恐れが出てきました。物理的には遠い地域とされますが、“パートナー”としては、遠い世界の出来事とは呼べないのではないでしょうか。
私自身、仕事柄、北アフリカ地域と中東地域をカバーする案件が多いため、非常に懸念を抱いています。
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