財務省に隠蔽の恩返しか?安倍首相が消費増税を延期できない理由

 

思い出してみたい。安倍首相がどれだけ財務省の隠ぺい工作に救われたかを。もちろん森友学園問題である。佐川元理財局長は、安倍首相夫妻と森友学園の小学校設立計画に関連する一切の文書を隠ぺい、改ざんし、国会で不誠実な答弁を繰り返して世間の顰蹙を買った。佐川氏個人の行動というより、財務省の総意として安倍首相を守ったといえる。

佐川氏は論功行賞でいったん国税庁長官のポストを授かったが、ついには決裁文書の改ざんなどの責任を問われて更迭された。文書改ざんを押しつけられ苦悩した近畿財務局の職員は自殺した。

その一連の財務省の不祥事と悲劇は、もとをただせば、安倍首相夫妻が、教育勅語を幼稚園児に暗誦させる森友学園の教育方針にほれ込み、“小学校バージョン”の新設に協力しようとしたことに起因する。

その痛いところを国会で突かれた安倍首相が「私や妻がかかわっていたのであれば総理大臣をやめる」と言い放ったことから財務省の忖度によるウソの答弁がはじまり文書改ざんや情報の隠滅につながっていった。

安倍首相が森友問題で麻生財務大臣を切れなかった理由は、衆参で57人の議員をかかえる麻生派の力を頼むところが大きいこともあるが、財務省内における安倍首相への反発を麻生大臣が抑え込んだことへの恩義もあったに違いない。

その財務省に対し、二度目の消費増税延期を発表した2016年6月1日の記者会見における次の発言を覆すことはできなかったのではないだろうか。

「私は、財政再建の旗を降ろしません。…そして社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たす。…2020年度の財政健全化目標はしっかりと堅持します。そのため、ぎりぎりのタイミングである2019年10月には消費税率を10%へ引き上げることとし、30か月延期することとします」

安倍首相は、財政健全化とデフレ脱却を同時に進めるといういわば矛盾した政策を打ち出してきた。どちらも思うようにいかないのを、都合のいいデータとレトリックでごまかしているのが実態だ。

財政健全化では、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化する目標を掲げていたが、2018年6月作成の「骨太の方針」でこれまでの目標より5年遅い2025年度に黒字化すると変更した。

プライマリーバランスという概念を財政の世界に持ち込んだのは2004年当時の経済財政政策担当大臣、竹中平蔵氏といわれている。「プライマリーバランスが赤字のままだと、財政破綻する懸念が高まる」という竹中氏の言説が財務省や内閣に受け継がれていった。

その結果はデフレの深刻化だ。安倍政権で介護報酬や診療報酬を減らしたのは、大きな誤りだった。需要の増えている分野に適切な「政府消費支出」をしないということであり、デフレギャップ拡大の要因となった。

財務省、とくに主計局は予算作成の実務を担当するがゆえに、時の政権中枢に強い影響力を及ぼしてきた。とりわけ民主党政権で首相を務めた菅直人野田佳彦両氏は財務省の思想にいち早く染まってしまった

菅氏は財務大臣時代、カナダのイカルイットで行われたG7に出席し、ギリシャをはじめとする欧州ソブリン危機の深刻さを実感した。首相就任後、財政再建は不可避だと財務官僚レクを受け、消費増税を打ち出したため、参院選に敗北し政権の弱体化を招いた。

財務大臣、副大臣の経験者である野田佳彦氏は首相になるや、消費増税の3党合意に突き進んだ。民主党政権が誕生した2009年衆院選のマニフェストに反すると憤慨した小沢一郎氏らのグループは法案に反対票を投じて離党した。

財務省が菅、野田両氏に消費増税の必要性を説くのに使ったギリシャなどの債務不履行危機は、自国通貨建ての国債を発行できない国ゆえに起きたことだ。日本国債にデフォルトの可能性がほとんどないことは財務省がいちばん知っている

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