成果なしのG7でマクロン大統領が放った“場外”ホームランの真価

 

ほかには、最近『海洋安全保障イニシアティブ』に改名されたホルムズ海峡のタンカー防衛のための有志連合の行方です。現時点では、バーレーン、オーストラリア、そして英国が参加の意向を示していますが(イスラエルは直接的な部隊の参加は見送るとのこと)、ほかのアメリカの同盟国は対応に苦慮しています。

それは、アメリカからの要請を受けつつも、国内法や国内世論、そして国際的な自国のプレゼンスに照らし合わせた際に、なかなか条件が揃わないことがあります。

加えて、NATOの結束の低下にもみられるように、アメリカと欧州各国との間に生じている亀裂も大きな理由でしょう。そして、イランのザリフ外相による外交努力(各国に有志連合の参加を見合わせるように働きかけている)も実っているものと思われます。

しかし、今後、この『有志連合』がどのような形で作用するかによっては、対話の機運が高まる米イラン間の緊張が解れるどころか、他国そしてアラブ地域を巻き込んだ大戦争に発展する可能性も存在します。

アメリカとしては直接的な武力介入は政治的に(2020年秋の大統領選挙を控えているので)避けたいですし、アラブの軍事強国であるイランも、アメリカと事を構えて生き残れるとは思っていませんので、フルスケールの直接戦争は思いとどまるかと思いますが、両国の後ろ盾となっている周辺国などを巻き込んで、とても収拾がつかない状況に陥る可能性があります。

イスラエルは必ず何らかの形でイランと対峙しますし、アメリカが軍事的な介入をすれば、イランの後ろ盾であるロシアは必ず対抗します。そして、地域の大国トルコも、シリアにおけるクルド人の扱いをめぐる対立もあり、アメリカとその同盟国に牙をむくことになるかもしれません。

そうなるとイランとサウジアラビアの反目、イスラエルとイランの非常にデリケートな軍事的均衡の崩壊、シリアを舞台にする米ロ対立のイランおよび周辺国への波及…。いろいろな情報を総合的に見てみると、どうも大袈裟な恐れではないようです。

無人偵察機や攻撃機、そして規制の必要性が叫ばれるAI兵器などの開発と技術力の向上による利用機会の増加は、なかなか抑えきれないところはありますが、中東アラブ地域での武力衝突のドミノについては、比較的容易に外交的な解決が可能かと思います。そのためには、意図と意義については理解しますが、『有志連合の結成と実施』については、一旦、撤回する必要があるように考えます。

せっかく生まれつつある、対話による緊張緩和の努力の機会を、ぜひ最大限活用してほしいと思います。そのためには、せっかく本件の“仲介”の一翼を担う役割を与えられた日本政府および安倍総理の外交的な努力が果たすべき役割は、限りなく大きいと考えています。

image by: Casa Rosada (

Argentina Presidency of the Nation

) [CC BY 2.5 ar], via Wikimedia Commons

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