「頭でっかち」が変わる。松下幸之助がエリートに与えた、縁の力

 

数理経済学や経営学に基づいて意思決定し、冷徹に経営判断を下す…もちろんそれは大切なことですが、このような考え方だけで企業はうまく回っていくのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、「中塾」代表の中博氏が体験した松下電器入社時のエピソードを通じ、松下幸之助が育て上げてきた「ヒトと縁の文化」を紹介しています。

松下幸之助氏が入社式で語ったこと 中博(「中塾」代表)

創業した松下電器産業(現パナソニック)を一代で世界的企業にまで育て上げた松下幸之助氏。

現在発行されている『致知』最新号の12月号では、その謦咳に接し、教えの伝導に尽力している「中塾」代表の中博氏に、同社入社のいきさつと入社式でのエピソードを語っていただきました。


私は大学で数理経済学や当時最先端のアメリカの経営学を学んでいましたから、「世界企業をつくった松下幸之助というイメージを描いて松下電器に入社したわけです。ところが、入社式に出てきた松下幸之助は、にこにこして次のような話を始めたんですね。

「君らな、僕の顔をよく見ろよ。このおっさん、何か面白いな、なんか縁があるなと思ったら松下電器で頑張ってほしい。しかし何かぱっとせんな、こんな会社は嫌やなと思ったら明日から来なくていい。

 

……君らは偉くなりたいやろう。この中で誰よりも松下電器が好きになったら、偉くなるよ」

私はてっきり経営戦略の話が聞けると思っていましたから、その時は松下幸之助の言葉がそこまで心に入ってきませんでした。ただ同時に、会社を本当に好きになれば年齢に関係なく活躍できるというのは面白いなという気もしたんです。なので、希望と落胆の両方を感じながらの入社でしたね。

それで入社をしたら、私らの時は販売実習と共にまず製造実習に行かされたわけです。当時は60事業部くらいあったと思いますが、皆が行きたがったのはテレビ事業部やラジオ事業部といったかっこいいところですよ。

順番に名前が呼ばれていきまして、私は最後のほうだったのですが、乾電池事業部で実習することが決まった。それが分かった瞬間、皆が「可哀そう」と言うわけや(笑)。というのは、当時の電池工場では炭素を使いますから、実習すると一日で真っ黒になるんです。全工場の中で一番大きなお風呂があったのが乾電池事業部だった。

しかも、乾電池事業部で実習することになった6人のうち、なぜか私だけ工場を抜けた先にある小さな掘っ立て小屋に連れていかれましてね、「君の実習所はここだよ」と。えっ、と思った(笑)。そこは、アメリカのマロリー社と提携したアルカリ電池の実験工場だったんです。

掘っ立て小屋の中は、それこそチャップリンの映画の世界でね、ラインで流れてくる電池の管にスポイトでひたすらアルカリ液を入れていく。毎日8時間ずっとその繰り返しです。

作業が追いつかなくなると、足でボタンをばっと押してラインを止めるのですが、そしたら中卒や高卒の女性社員がさっとやって来て手伝ってくれる。自分より年齢が下の彼女たちがもう私より作業も早いし上手なわけですよ。

その中で、私も大学で数理経済学や経営学をやっていたなんて全部忘れて、人生哲学が180度変わりました。こういう人たちが一所懸命働いて日本の産業を支えているんだと。それに彼女たちは働かされているという雰囲気は全くなくて、むしろ嬉々として工場の改善点を提案してくるんです。

そして、彼女たちと次第に仲良くなって、仕事帰りに皆で食事などに行くようになるとね、「ああ、これが入社式の時に松下幸之助が言っていた縁なんや」と思ったんです。そう思うと、自分も彼女たちのために戦ってやろうという気持ちが起こって、現場の改善点や電池の販売方法も含め、事業部長に提案書をだーっと書き始めた。

『致知』2019年12月号

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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