正解できるか!採点できるか!共通テストは国語記述問題もヤバい

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来春から実施される大学入試共通テスト。民間試験導入が見送られた英語に話題が集まっていますが、実は記述問題が導入される国語でも、難易度の高さが危惧されています。メルマガ『ふくしま式で文学・評論を読み解く!』の著者である、国語指導のカリスマ・福嶋隆史さんが、事前に実施されたテスト施行調査の解答例をもとに分析しています。

※本記事は有料メルマガ『ふくしま式で文学・評論を読み解く!』の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

大学入学共通テスト 国語の記述採点がいかに困難を極めるかを明確にする

(お断り……この記事は有料メルマガ及びmineにて「大学入学共通テスト試行調査(11/10実施・国語)を斬る ~生徒の実物答案で実証!~」というタイトルで2018年11月から有料公開していたものですが、公開から1年が経過したこと、そして今こそこの記事が読まれるべきであることから、無料公開に踏み切りました。今日までに有料でお読みくださった方々には恐縮ですが、ご理解いただければ幸いです)

2018/11/10・11の2日間、約8万人の高2,高3を対象とした大規模なテストが行われました。大学入試センター試験に替わって導入される大学入学共通テストの、試行調査です。2017年去年の11月に実施された試行調査については、既に分析記事をアップしています。

2017年11月のテストにくらべ、2018年11月のテストは「だいぶ様変わりした」「一定の評価ができる」といった、前向きな評価をする識者が多いようですが、私からすると、五十歩百歩、どんぐりの背比べ、といったところでした。ただ、今までのセンター試験とくらべると、素材文が短めになっていたり、小説がなくなっていたり*と、好感の持てる作りになっているのは確かです(*私は小説等を共通テストで問うことに否定的です)。が、それでもやっぱり問題は山積。われわれ民間が、可能な限り追究(追及?)していかねばなりません。

マーク式設問についても扱うべきなのですが、今回はやはり、センター試験改革の「目玉」でもある記述式設問(第1問)に絞り込んで、分析していきたいと思います。(→その後、マーク式(第2問)についての分析を有料メルマガにて配信しました)

まずは例によって、読者ご自身に解いていただく必要があります。公式ページからPDFを入手し、解いてみてください。大学入試といっても難易度はさしたるものではなく、正直なところ中学入試と大差ありません。

ただし、その採点基準は非常に異質です。今回は、そのあたりを中心に指摘していきます。なお、今回の記述設問は、当塾生徒の中3~高3(うち10名:中 3は1名のみで他は高校生))を対象に解いてもらいました。その具体的な答案も紹介しながら進めていきます。

目次:
【1】いい加減すぎる記述正答例
記述の常識を崩壊させる「指定字数の軽視」──字数はなぜ必要なのか?
センターが用意した問1の「正答例」はどれも正答ではない!

【2】実物答案が如実に示す、記述採点の難しさ
またしても粗悪正答例──“This is a book”が答えに入るはずがない!
記述採点はこんなにも難しい──当塾生徒 10名の問 2答案で実証する
接続語「しかし」を禁じてしまう問3の記述条件

【1】いい加減すぎる記述正答例

記述の常識を崩壊させる「指定字数の軽視」──字数はなぜ必要なのか?

今回の記述設問における最大のポイントは、いわゆる「途中点」に該当するシステムが導入されたということです。 1年前の試行調査では、シロでない答えは全部クロ、という採点だったため、正解率が0.7%という問いも生じてしまいました。そこで大学入試センターは、苦肉の策を練ってきたわけです。

ただし、正確には途中「点」ではありません。そもそも点数をつけず、段階評定にするというのです。具体的には、次のようになっています(第1問の問1の場合で例示)。

問1の評価基準

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問1の段階表

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全体の段階表

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こうした段階的評価を小問ごとに行い、それを全体の段階表に当てはめて、記述の総合段階を評価するというわけです。(★)2019/8/23に、少し変更された新しい段階表が公表されました:以下のとおり。なにが変わったのかについては、旺文社のまとめPDFがわかりやすいです。

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まあよく考えたなという感じもしますが、最大の驚きは、「指定字数の軽視」です。

 

旧・段階表においては、正答の条件の1つに過ぎない。新・段階表においても、「*」マーク、つまりマイナス評価が1つつくに過ぎない。
いずれにせよ、字数を無視しても段階Aに到達可能です。完璧を目指さないならば「字数は無視してしまうほうがラク」という考えもできるわけです。

一般に、記述答案を作る際に最も苦労する点の1つは、なんと言っても「指定字数に収めること」です。字数オーバーなんて、もってのほか。句点1つでも超えれば、それは無条件に不正解となる。だからくれぐれも気をつけなさい。

──世の教師という教師はみな、そうやって指導してきたはずです。学校であれ、塾であれ。

字数というのは、「絶対の正答条件」だったのです。答案が指定字数に収まっている場合に限り、内容の途中点を与えていく。これがあらゆる記述採点の常識でした。

ところが、今回の試行調査は、この常識を崩壊させました。指定字数は正答条件の1つにすぎないというわけです。

指定字数とは多くの場合、抽象化の度合いを指定するものです。

80字、60字、40字……と字数が減るほど、内容を要約・抽象化して、骨組みだけを抽出した答案を作らねばなりません。逆に、字数が多ければ、ある程度の具体例等を入れていくことになります。

こうした抽象化・具体化の能力を試すためにこそ、指定字数は存在します。

その枠組みを外すということは、抽象化しなくてもよいということを意味します。早い話が、字数を無視して力技で本文をコピペすれば、正答条件に該当する部分が「含まれる」答案は、作れるかもしれません。こうした意味から、字数指定はやはり外すべきではなかったでしょう。

ただ、問題冊子の裏表紙に掲載された涙ぐましいばかりに詳しい「解答上の注意」をみると、やはり「1字」の判断は非常にシビアであることが分かります。ですから、「まっとうな内容の答案」を字数オーバーで切り捨てるよりは字数という条件を格下げしたほうがいいだろう、と考えたのも、一定の理解はできます。

問題冊子の裏表紙にある、解答上の注意

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解答用紙(記述の部分)

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このバカバカしいばかりの当たり前の注意事項も、「解答用紙の点線枠」というのも、いずれも今回の試行調査から登場したものです(逆に、前回は指定字数を明確にしておきながらこんな注意事項すら設定していなかったわけです)。

なお、点線枠の内側はそれなりに余裕があるため、シャーペンを使って小さい文字で書けば、かなりの字数を追加できてしまいます。

それにしても、と思います。

大学入試センターは、各メディアもこぞって取り上げた「0.7%ショック」に、よほど頭を打ちのめされたのでしょう。その反動で難易度を下げた印象が、どうしても否めません。

むろん、難しすぎるのは考えものです。しかし、能力を発揮しようがすまいが正解になってしまうような設問が、果たして良問と言えるのか。はなはだ疑問が残ります。

「能力を発揮しようがすまいが正解になってしまうような設問」と、今書きました。それはむろん、字数指定の緩さの話だけをしているのではありません。これから述べる各設問の分析こそが、その本筋です。

センターが用意した問1の「正答例」はどれも正答ではない!

まず、全体像です。

問1……主に、言いかえる力(同等関係整理力)を試す設問
問2……主に、たどる力(因果関係整理力)を試す設問
問3……主に、言いかえる力とたどる力を試す設問

ただし、問1・3は、くらべる力(対比関係整理力)もかなり必要です。

さて、問1から見ていきましょう。

〈問1〉文章Ⅰの傍線部A「指差しが魔法のような力を発揮する」とは、どういうことか。三十字以内で書け(句読点を含む)。

なんのことはない。傍線部の言いかえ設問です。あらゆる読解問題で最も多いパターンです。私が、『国語読解 [完全攻略] 22の鉄則』の114~125ページの、筆頭に上げているパターンです。

鉄則15 「比喩」は〈具体〉である。まず、抽象化せよ。
鉄則16 傍線部がパーツに分けられるなら、パーツごとに言いかえよ。

この2つの鉄則を使って解くのがセオリーです。

まず鉄則16に従い、次のようにパーツ分けします。

「指差しが/魔法のような力を/発揮する」

この中で、筆者独自の言い回し(比喩的表現)は、「魔法のような力」。「指差しが」と「発揮する」は比喩的ではないため、言いかえずに残すのが基本です(が、必要であれば語順を入れ替えたり似た意味の表現にかえたりはします)。

さて、鉄則15に従い、魔法云々を抽象化していきます。「魔法のような力」とは、どういう意味か? 魔法の特徴をいくつかイメージしながら考えます。

・ものすごい力 ・不思議な力 ・非現実的な力 ・普通では考えられない力……など。

ただ、これらを用いたとしても、その「力」の中身を説明したことにはなりませんから、文脈に応じてその中身を表現しなければなりません。そこで、傍線部の3行前から確認すると、次のような対比になっていることが分かります。

ア)ことばを用いず、指差しも用いずにコミュニケーションをとるのは難しい

「逆の状況」

イ)ことばが通じない国でコミュニケーションをとる際に、指差しは魔法のような力を発揮する

「相手になにかを指し示したり、相手の注意をなにかに向けさせたり」とか、「相手になにかを頼んだり尋ねたり」とかいうのは、「コミュニケーション」という一言に集約できます。それは、傍線部の直後に、「指差しはコミュニケーションの基本なのだ」とあることから、容易に認識できます。

さて、このイを、対比関係整理の原則である「観点の統一」(鉄則 7)に従って整理すると、こうなります。

イ)ことばを用いずとも、指差しによってコミュニケーションをとれる

ということで、これが「魔法のような力」の内実となります。図らずも、ここに「魔法」のイメージが若干含まれています。

ことばを用いなくてもコミュニケーションできるなんて、「不思議」です。「普通では考えられない」イメージもあります。

普通……………ことばを使ってコミュニケーション

普通でない……ことばを使わずコミュニケーション(魔法っぽい)

そんなわけで、次のような答案が出来上がります。

〈問1〉福嶋の答え
ことばが通じないのに指差しによって意思疎通できるということ。(30字)

コミュニケーションをそのまま使いたいのですが、字数オーバーしてしまうので、意思疎通にかえました。

正直、この問1は字数が足りなくなりがちです。30字という設定は、やや無理があるでしょう。30字に収めるためにあれこれ試行錯誤しているうちに時間がなくなり、肝心な問3に時間をかけられなくなったりしては、段階的評価が下がってしまいます。

しかし、先にも述べたように字数オーバーは一応許されているのです。

「無理なら字数オーバーを放置し、重要度の高い問いに専念する」といった「テクニック」が、今後浮上してくるのかもしれません。

もし「コミュニケーション」を無理やり使おうとすると、うっかり「ことばが通じないのに」あるいは「指差しによって」を外してしまうかもしれませんから、注意が必要です。

「ことばが通じないのに」を入れないと、「普通とは違う」魔法のイメージが出ません。

また、「指差しが」あるいは「指差しによって」は必須です。「指差しが」は、できればそのまま残したいのですが、最後の「できる」につなげるため、先述の福嶋の答えでは「指差しによって」にかえています。

え? なんだか、センターの用意した「正答の条件」と違うって?

そう、違うんです。

センターの「正答の条件」の②です。

疑問が残る「正答の条件」
②ことばを用いない,または,指さしによるということが書かれていること。

「または」ではありません。両方、必須なのです。

主語・主題である「指差し」は、傍線部にきっちり含まれていますから、これを外したら減点です。

どんな国語テストでも、そうです。

そもそも「指差し」こそが文章全体のテーマなのですから、それを一般化して「ことばを用いない方法」にまで広げてしまうのは、疑問が残ります。

一方、「ことばを用いずに」といった表現を入れないと「魔法」感が出ないのは、今さっき述べたとおりです。

そういうわけで、解答例には優劣が生じます。

大学入試センターの「解答例」を採点する(10点満点)
例1 ことばを用いなくても意思が伝達できること。
例2 指さしによって相手に頼んだり尋ねたりできること。
例3 ことばを用いなくても相手に注意を向けさせることができること。
例1……6点(指差しに言及していない)
例2……6点(魔法感がない)
例3……6点(指差しに言及していない)

つまり、問1の解答例には、満点解答はありません。

ひどいですね。

だいたいにして、文末がどれも「できること」になっているのが、引っかかります。

普通は、「できるということ」とすべきです。

その意味でも、30字では字数が足りません。

なお、傍線部の2行あとに、「強力な手段」というのがあります。

その文は、そもそも「指差し」の定義となっています(鉄則13:定義にマークし定義を使え)。

そこで、こんな答えも想定されます。

「指差しが、他者の注意を喚起する強力な手段になるということ」(28字)。

かなりよい答えではありますが、「ことばが通じないのに意思疎通できる」つまり「~なのに~できる」という対比的な表現とくらべると、弱い気がします。ですから、これは8点とします。

「魔法のような力」を、単に「強力」にしただけであり、内容的に何がすごいのかを説明しきれていません。

一文の中に対比を入れるからこそ、強力さが説明できるわけです。

と、客観的に説明はできますが、数値化・点数化するとなると、採点者によって揺らぐのを完全に防ぐことはできません。

こうした採点は、最終的にどうしても主観が入ります。

でも、入試の場合は、それでよいのです(検定などであれば別ですが)。

入試というのは、結局、その大学なら大学が欲しい学生・欲しくない学生を選別するのが目的です。

その大学の校風なり教育方針なりに沿った主観を堂々と発揮して、記述を採点すればよろしい。

にもかかわらず、50万人に共通する客観的基準を作り、まるで検定かのように評価評定しようとする──。

その必要が、そもそもないのです。

国語のテストはマーク式より記述式がよい。それは、そのとおりです。しかし、採点者の主観を徹底排除したいのであれば、それは無理な注文です。マークで統一するしか、ありません。

【2】実物答案が如実に示す、記述採点の難しさ

またしても粗悪正答例──“This is a book”が答えに入るはずがない!

……と、結論を書いてしまったところで、次の問2に参ります。問2は、基本的には因果関係を問う設問です。次のような構造になっており、ウの理由を考えることになるからです。(ア・イ・ウは福嶋が付記)

【初期の指差しと言語習得】
ア ある単語を耳にする。

イ 子どもは無数の候補の中から適切な一つを選ぶ必要が生じる。
しかも
大人は【                  】

ウ だから子どもは積極的に指差しをする。

こういう問いは、言うまでもなく鉄則19【直前の理由(イ)を常に意識せよ】のパターンなのですが、そこまで考える必要もありません。なにしろ、本文に次のような記述があるからです。

モデルである単語とその指示対象との対応関係の把握は、容易そうでいて実はさほどやさしい作業ではない。子どもの生活世界は、ものにあふれている。ある単語を耳にしたとき、彼らは無数の潜在的な指示対象の候補のなかから、適切な一つを選択しなければならないのである。しかも大人は、英語の先生が生徒にしてみせるように、本を手にとって”This is a book”と教えてはくれない。(『子どもはことばをからだで覚える メロディから意味の世界へ』正高信男)

先のアイウは、この本文の文脈と完全に一致しています。

イの該当箇所が【英語の先生が生徒にしてみせるように、本を手にとって”This is a book”と教えてはくれない】の部分であるのは、小学生でもすぐに分かります。となると、まさかこれがそのまま答えではないでしょ、と誰もが考えます。そして、これをそのまま答えにするのは、明らかに間違っています。

既に書かれているアイウはいずれも〈抽象〉であり、空欄だけをこのような〈具体〉で埋めるのは明らかに違和感があります。それに、設問にこう書かれています。

〈問2〉
子どもが「初期の指差し」によって言語を習得しようとする一般的な過程を次のようにノートに整理してみた。その過程が明らかになるように、空欄に当てはまる内容を四十字以内で書け(句読点を含む)。

大事なのは、「一般的な」と明示されていることです。一般化せよというのです。This is a bookのくだりをそのまま入れたら、一般化できません。そして何より、

「大人は、本を手にとって“This is a book”と教えてはくれない」
↓だから
「子どもは積極的に指差しをする」

というのでは、たった1つの〈具体〉を根拠にした乱暴な帰納的推論となってしまいます。こんな因果関係は、明らかに非論理的です。

しかし! ここでも驚くべきことに、模範解答がおかしい。This is a bookが許容されているのです。ただ、それは後でまとめて「採点」するとして、ここではまず、私の解答例をお示しします。

〈問2〉福嶋の答え
単語とその指示対象との対応関係を、具体的・積極的に教えてくれるわけではない。(38字)

「大人は、本を手にとって“This is a book”と教えてはくれない」が該当箇所であることは明白ですから、これを抽象化すればよいだけです。

要するに、因果関係整理問題(たどる設問)ではありますが、本質的には同等関係整理問題(言いかえる設問)です。

「本を手にとって“This is a book”と教えてはくれない」とは、

「具体的に“これが本だよ”と教えてはくれない」ということ。

「これ」………指示対象

「本」…………単語(ことば・記号)

ここまで分かれば、あとは上記の解答例が容易に作れます。

「単語とその指示対象との対応関係」というフレーズは、先に引用した本文中に明確に書かれていますから、これを使えばよいだけです。

なお、「積極的に」は、因果関係をより意識した表現として、加えました。大人は積極的には教えてくれない、だから、子どもが積極的に指差しして質問しなければならない、という文脈です。

とはいえ、「積極的に」がなくても、因果関係はそれなりに通じます。「しかも」の前の部分(子どもは~選ぶ必要が生じる)に注目しますと、「必要が生じる、だから、積極的に指差しをする」という文脈になっており、これだけでも因果関係の客観性はそれなりに認められます。

また、「具体的」も(あったほうがよいですが)なくてもかまいません。

さて、ここでセンターが用意した解答例をチェックしてみましょう。

「解答例」を採点する(10点満点)
例1(大人は)自分から指示対象を指し示して、単語との対応関係を教えてはくれない。(33 字)
例2(大人は)適切な対象を手にとって「これが単語に対応するものだ」と教えてはくれない。(36 字)
例3(大人は)英語の先生がするように、本を手にとって「これが本だ」と教えてはくれない。(36 字)
例1……10点
例2……10点
例3……0点(理由は先述のとおり)

正答の条件は、こうなっています。

① 40字以内で書かれていること。
②(大人は)教えてはくれないということが書かれていること。
③ 指示対象と単語との対応関係が書かれていること。

これらは別段問題ないように思えるかもしれませんが、判断しづらい点をかなり含んでいます。特に条件③はそうです。

正確には、「指示対象と単語との対応関係について、本文どおりに言及されていること」とすべきです。「関係が書かれている」と、「関係について書かれている」とでは、意味が全く異なるのです。こうした判断基準のいい加減さは、必ず採点者を迷わせます

たとえば、です。私の塾の生徒が作った答案を、ごらんください。わずか10名の答案ですが、あまりにバリエーション豊かで、驚きました。字数はどれも指定字数以内です。

当塾生徒(中3~高3*)の答案(*中3は1名、あとはみな高校生)
Aさんの答案:(大人は)子どもがすぐ分かるよう指示対象を目の前において単語を教えていない。
Bさんの答案:(大人は)対象物を直接手にとってそれが何というものであるかを教えてはくれない。
Cさんの答案:(大人は)子どもに対応関係を教えてくれないため、子ども自らが答えを積極的に迫る必要がある。
Dさんの答案:(大人は)それが何を指し示しているのかということを自ら聞かなければ教えてくれることがない。
Eさんの答案:(大人は)英語の先生が生徒にしてみせるように、一つ一つの語彙を自発的に教えてはくれない。
Fさんの答案:(大人は)子供が指示対象を認識できるように一つひとつ事物の名前を教えてくれるわけではない。
Gさんの答案:(大人は)単語を教えることに積極的ではなく、対象の名前を指し示しながら教えてはくれない。
Hさんの答案:(大人は)子どもの指し示す対象を面前にして、子どもと向き合ってコミュニケーションを取る。
Iさんの答案:(大人は)子供が知りたいと思っている対象を認識できないためその単語を教えることができない。
Jさんの答案:(大人は)モデルである単語とその指示対象との対応関係を一つ一つ明確に示してはくれない。

さて、いかがでしょうか。一読しただけで苦笑がもれるほど、採点に困りそうですね。

記述採点はこんなにも難しい──当塾生徒10名の問2答案で実証する

ともあれ、採点者になったつもりで、先の「正答の条件」に照らしてチェックしてみてください。あるいは、あなたご自身の基準で、採点してみてください。

正答の条件(再掲)
① 40字以内で書かれていること。
②(大人は)教えてはくれないということが書かれていること。
③ 指示対象と単語との対応関係が書かれていること。
評定段階
a 条件(1)~(3)のすべてを満たしている解答
b 条件(2),(3)を満たしている解答(1のみ満たしていない)
c 次のいずれか(1は満たしていても満たしていなくてもよい)
・条件(2)を満たしている解答(3は満たしていない)
・条件(3)を満たしている解答(2は満たしていない)
d 上記以外の解答/無解答

以下、答案を再掲しながら、福嶋基準での採点、およびセンター基準で福嶋がつけてみた段階評定、およびそれらの理由を説明します。

(◯/10) ……福嶋基準での採点

〈a〉…………センター基準で福嶋がつけてみた段階評定

Aさんの答案(8/10)〈a〉:

(大人は)子どもがすぐ分かるよう指示対象を目の前において単語を教えていない。

おおむね意味は通じるが、やはり「対応関係」などの言葉が欲しいところ。また、「教えていない」が若干引っかかる。「いない」と「くれない」はやや異なる。正答条件②③とも、採点者によって判断が分かれそうな答案。

Bさんの答案(7/10)〈a〉:

(大人は)対象物を直接手にとってそれが何というものであるかを教えてはくれない。

「単語」という言葉が欲しい。おそらくこれはかなりの採点者が条件③に当てはまらないと判断しそう。ただ、「それが何というものであるか」の部分が、単語すなわち記号を意味しているとは言えるので、不可とするのは躊躇する。

Cさんの答案(6/10)〈c〉:

(大人は)子どもに対応関係を教えてくれないため、子ども自らが答えを積極的に迫る必要がある。

「子ども自らが答えを積極的に迫る必要がある」の部分は、直後との因果関係をよく意識できている。が、「対応関係」が何と何の関係なのかが書かれていないため、条件③は該当しない。

Dさんの答案(8/10)〈a〉:

(大人は)それが何を指し示しているのかということを自ら聞かなければ教えてくれることがない。

「それ」は「単語」を意味するが、Bさんの答案と同じく「単語」という言葉がないので危険。おそらく条件③に該当せずとされる。しかし、もともと問題の囲み内に記載されている最初の文(アとして示した文)に「単語」とあるので、これを指示語で置き換えてはいけないとも言いきれない。意味上は、正しい答案である。「自ら聞かなければ」も、直後との因果関係を意識できている。

Eさんの答案(6/10)〈c〉:

(大人は)英語の先生が生徒にしてみせるように、一つ一つの語彙を自発的に教えてはくれない。

「英語の先生が生徒にしてみせるように」は不要。字数の無駄。その分、「単語とその指示対象の対応関係」という部分が書けなくなり、「語彙」と要約してしまっているが、語彙とは言葉の集合を表すだけであり、対応関係を意味するとまでは言えないので、条件③は該当しない。ただし、「自発的に」があるのはよい。

Fさんの答案(10/10)〈a〉:

(大人は)子供が指示対象を認識できるように一つひとつ事物の名前を教えてくれるわけではない。

「単語とその指示対象との対応関係を教える」ことと、「指示対象を認識できるように名前(=単語)を教える」こととがほぼ同じであるということを、どれだけのアルバイト採点者が理解できるか、疑問(「認識」とは「識別」であり、それはすなわち単語と単語の境界線を明確にすることだから、つまりは単語と指示対象との対応関係をはっきりさせることと同じである)。そもそも「単語」が「名前」になっている時点で、大半のバイト採点者はダメだと判断するだろう。しかし言うまでもなく、記号論等では「名前」という言葉が登場するし、何ら問題のない置き換えだ。

Gさんの答案(5/10)〈c〉:

(大人は)単語を教えることに積極的ではなく、対象の名前を指し示しながら教えてはくれない。

この答案は、損をしている。「~なく、」と文を切り並列関係にしているので、意味が途切れてしまっている。そもそも「教える」が2回出ている時点で、前半と後半は一体化できるのだが。「単語を、その対象の名前を指し示しながら教えてはくれない」などとしてしまえば、途端に正解になるのだが、切ってしまっているため、冒頭の「単語を教える」が、「単語と対象の関係を教える」という意味なのか、単純に「単語の存在を教える」という意味なのか、分かりにくい。

Hさんの答案(0/10)〈d〉:

(大人は)子どもの指し示す対象を面前にして、子どもと向き合ってコミュニケーションを取る。

「単語」に該当する言葉がどこにもない。また、「教えてはくれない」に該当する部分もない。正反対のことを言っているように見える。わざわざ文章Ⅱの5行目まで戻って考えているのだが、解答としては成り立っていない。

Iさんの答案(0/10)〈d〉:

(大人は)子供が知りたいと思っている対象を認識できないためその単語を教えることができない。

これはだいぶ見当違い。素直に本文中の該当箇所を見て言いかえればよいのだが、下手に自分の頭で考えてしまうと、こんな答えになる。

Jさんの答案(10/10)〈a〉:

(大人は)モデルである単語とその指示対象との対応関係を一つ一つ明確に示してはくれない。

これは文句なしで正しい。なお、「示す」と「教える」を別物と判断するような採点者がいないことを願う。

……さて、いかがでしたでしょうか。記述式の採点がいかに困難なことか、よくおわかりいただけたことでしょう。

まして、こういう文章については、言語学や記号論の素養のない人に採点を任せるのは危険です。

Fさんの答案のようにちょっと表現が替わっただけで混乱してしまう採点者は、大勢いるでしょう。

このメルマガでもときどき触れているとおり、当塾ではソシュール言語論をかなり教えています。ですから、Fさんのような答案がサラッと出てくるわけです。

採点者の能力が受験生の能力を下回っているケースでは、多くの場合、優れた答案ほどバツを喰らいます。

こんなことが許されてよいのか、はなはだ疑問です。

ところで、イに当たる部分(問題冊子の、点線で囲まれた部分)の一文目にも、疑問があります。

「子どもは無数の候補の中から適切な一つを選ぶ必要が生じる」というこの文です。

これ、分かりにくくありませんか?

要は、「適切な〈何を〉一つ選ぶのか」が、抜けているのです。

本文では「無数の潜在的な指示対象の候補」となっているので、これは明らかに、出題者が意図的に外したのです、指示対象という言葉を。

難易度調節のつもりで、「ヒントにならないように」と考えたのでしょうが、貧相な発想だと思わざるを得ません。

文の意味を崩してまで、やることでしょうか。

接続語「しかし」を禁じてしまう問3の記述条件

さて。

ここまでで、トータル12,000字にもなってしまいました。

私の気力・体力・時間の関係上、ここまでと致します(おそらく読者のみなさんも息切れしてしまっているでしょう)。

問3を綿密に扱いたいのは山々ですが、やめておきます。

ともあれ、「いかに採点が難しいことか」を伝えるには、ここまでで十分でしょう。

ただ、問3についても、少しだけ書いておきたいと思います。

記述条件の4つ目。

2文目は「それが理解できるのは」で書き始めろ、という指示についてです。

これ、かなり苦労します。

なぜなら、素直に書いていくと、2文目の頭はどうしても「しかし」など逆接を入れたくなるからです。

実際、生徒の中にも、つい「しかし」と書いていた子がいました。それだけで、条件に該当せずとなってしまうのです。

採点の利便性や難易度の調節のために、こうした条件づけは致し方ないのでしょうが、答え方を限定するならば、あらゆる可能性を考慮した上で決めてほしいものです。

私の結論は、既に述べました。

が、再度書いておきます。

検定ではなく入試である以上、各大学が好きな問題を作り、好きな基準で、好きなように学生を合格させればよろしい。

50万人に共通する客観的基準を作り、まるで検定かのように評価評定しようとするのは、入試のあり方として間違っている。

どうしてもそうしたいのなら、マーク式で統一するしかない。

しかし、マーク式で測れる国語力には限界がある。

だから、センター試験というより大学入学のための共通テストそのものを、廃止し、現行の二次試験だけにするのが、ベストな選択である。そういうことです。

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福嶋隆史この著者の記事一覧

【2019.10~質問受付開始! 届いた全ての質問に答えます】国語指導のカリスマ福嶋隆史が今解き放つ、シンプル&ハイレベル読解技法の全て。書籍にできない塾内教材を惜しみなく公開。塾講師・学校教師、受験生とその親の皆さん必読。Eテレ「ニューベンゼミ」出演・監修。【著書】『「本当の国語力」が驚くほど伸びる本』『「本当の国語力」が身につく問題集』『「本当の語彙力」が身につく問題集』『”ふくしま式200字メソッド”で「書く力」は驚くほど伸びる!』(大和出版)など24冊・累計68万部

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【著者】 福嶋隆史 【月額】 ¥825/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 第4水曜日(年末年始を除く) 発行予定

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