恐ろしい自爆営業。元国税が明かす、かんぽより酷い税務署の実態

 

調査官の「自爆営業」

このノルマが、どれほど厳しいものであるのか、わかりやすい例を示したいと思います。

10年前の話ではありますが、2008年5月に国税職員に関するこういうニュースが、新聞各紙で報じられました。広島国税局の若手調査官が、企業が脱税行為などをしたように装った文書を捏造ねつぞうし、必要のない課税をしたとして、虚偽公文書作成・行使の疑いで広島地検に書類送検されたのです。

そして広島国税局はこの調査官を即刻懲戒免職にしています。この調査官の行為とは、次のようなことです。

企業3社に税務調査に行いましたが、脱税(悪質な所得隠し)は見つかりませんでした。しかし脱税悪質な所得隠しがあったように上司に報告、調査書を作成しました。悪質な所得隠しの場合、重加算税という罰金的な税金がかかります。この調査官は、通常の手続き通り、相手先には重加算税を求める通知書を送付しました。しかし、この送付書は、送付した直後に「誤送付だった」として自分で回収していました。そして偽の重加算税約33万円は自腹を切って納付していたのです。

公務員の給料はそれほど高いものではありませんので、30万円というのはけっこう大きいはずです。おそらく、この調査官の月給を超えていたはずです。それほど高い重加算税を、「自爆営業」したわけです。この調査官は、そうせざるを得ないほど追い込まれていたわけです。

これは、この調査官の個人的な問題ではありません。この手の事件は、国税では何度も繰り返し起きてきました。国税という組織は、不正などをもみ消す能力は非常に高いのですが、それでも、こうしてニュースで報じられるようなことが時々あるのです。

精神疾患になったり自殺する調査官も

税務署(国税)の中では、税務調査に行って追徴課税や指摘事項がまったくないことを「申告是認」といいます。「申告是認」というのは、納税者の申告に誤りがまったくないことを示し、税務行政的に見ればおめでたいことのはずです。

しかし、調査官にとって「申告是認」というのは、もっとも忌み嫌われるものです。申告是認になると、調査官は何も仕事をしていないかのような扱いを受けます。上司や先輩から叱責、嫌味を受けるのです。

申告是認が続いたために、ノイローゼになったり出勤できなくなった調査官も多いのです。筆者の同僚も、明らかに税務署のノルマのプレッシャーが原因で、精神疾患になり、長期入院を余儀なくされました。また筆者の同期の中には自殺をした人もいます。

件数消化にも追われる

調査官は、追徴税のほかに調査件数を稼がなくてはなりません。国税庁の事務計画でそう決められているのです。どれだけの調査件数を行なったのか、というのは昔から国税庁の世間に対する「仕事をやってますアピール」の一つでした。だから、国税庁は、全体で毎年、一定の調査件数をこなさなくてはならないのです。

だから、末端の税務署の調査官は、だいたい週に一件は税務調査をこなさなくてはならないのです。週に一件というのは、実はけっこう大変です。実際の調査だけではなく、調査先の選定、調査の下調べ、納税者との追徴税の交渉、調査後の調書の作成まで、すべて含めて1週間で済まさなければならないのですから。となると、実際の調査(納税者宅に赴く)を行う日程というのは、せいぜい2~3日しかとることができません。2~3日で納税者の事を調査しなければならないとなると、よほど要領よくしないとできません。会社の帳簿にしろ、2~3日で全部を見ることはできません。税務調査では帳簿だけじゃなく、会社の概況やら、従業員の聞き取りなどもしなくてはならないのです。それはそれは大変です。

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