EUにギャンブルを仕掛けるトルコの狙い
これまでEU加盟問題や人権問題、財政問題など、多岐にわたって事あるごとにケチをつけられ、またシリア難民をトルコ国内に留めおく代わりにEUがトルコに60億ユーロの支援をするとの合意が履行されていないことに業を煮やして、2月28日から3月1日にかけて、『門は開かれた』というエルドアン大統領の発言にもあるように、国内のシリア難民を一斉にギリシャ国境まで移送するというギャンブルに出ました。EUはもちろん猛反発していますが、トルコは怯む雰囲気もなく、3月9日にブリュッセルで開催された首脳会談でも議論は平行線だったとのこと。
トルコの本当の狙いは何なのでしょうか?それは、イドリブ県におけるシリア国軍との衝突、そしてその後ろにいるロシア軍との衝突を避けるべく、EUやNATOからのバックアップを取り付けたいがために、シリア難民を餌に使っていると思われます。
今のところ、EUやNATOは本件への介入を見送っていますが、トルコ・ギリシャ国境に押し寄せる難民の波を目の当たりにして、今後、どのような決定がEU側で下されるかは、恐らく第101号を発行する頃には見えているかと思います。
そしてこの裏には、また東地中海海域での天然ガス田開発権(@キプロス)を巡るEUとトルコの争いも絡んでいますので、非常に複雑なゲーム・ギャンブルとなっています。
このような地域における直接的な反目はもちろん、シリアに権益を確保し、進出の足掛かりとしたいロシア、それを止めたいという目的と共に、盟友イスラエルに敵対するアサド政権をつぶしたい米国、トルコが目指すようにクルド人を実は排除したいイラク、イランなどの周辺国、そして、今でも中東・アフリカ地域は自らのsphere of influence(勢力圏)だと思い込んでいるEU。そして、まだイスラム国家の樹立を諦めないISの勢力。
地域内外の各勢力が戦いの場に選んだのがシリアとイラクであり、そこでの戦いの勝敗を決定づけるべく、いろいろと企んでいるのがEUや米国、ロシアと言った大国です。そして何よりも、いつもその中心にいて、状況をかき回しつつ、勢力基盤を盤石なものに変えていくのが、そう、トルコ・エルドアン大統領です。
国内での神通力は、かつてほどではないと言われていますが、トルコとその周辺地域、そして中東各国に赴かれたことがある方ならお感じになっているかと思いますが、まだまだエルドアン大統領の影響力は絶大です。
今後、そのエルドアン大統領が、どのような勝負を仕掛け、それに翻弄される大国たちと周辺国がどのように動き、そして中東・アフリカ、そして地中海地域はどのように再編されるのか。中東・北アフリカ地域で繰り広げられるトルコ主導のパワーゲームから、目が離せません。
image by: shutterstock