コロナ禍に米ドルと覇権争いが激化?中国デジタル人民元の現実味

 

中国デジタル人民元の進捗状況

中国人民銀行は、デジタル通貨の研究を開始したのが2014年。その3年後には、実用化に向けたデジタル通貨研究所を立ち上げ、2018年からデジタル人民元の体系的な開発を始めています。

中国のデジタル通貨は現在、深セン、西安、成都、蘇州という4つの地域でベータ版の試験運用がされています。蘇州では5月に公務員が受け取る手当の一部(交通費手当)がデジタル人民元で支給されるという報道もあるようです。

また、中国のマクドナルドやスターバックス、サブウェイなど19の小売企業がデジタル人民元の試運転対象店舗として招待されています。デジタル人民元は中国の中央銀行によって管理され、選ばれた商業銀行を通じて発行される見込みで、アリペイやウィーチャットペイなど、既に浸透している金融アプリを通じて中国国民が利用できるようになる予定です。

中国はアメリカとの覇権をめぐり、AIと5Gで世界をリードすることを目指しており、デジタル人民元の試験運転が完了すれば、中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)を展開する最初の経済大国になる可能性があります。

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フェイスブックの「リブラ」潰し

2019年6月にフェイスブックが仮想通貨「リブラ」の計画を発表しました。世界に20億人超の利用者がいる米フェイスブックが主導する仮想通貨だけに、「リブラが法定通貨を乗っ取るのでは」との懸念が浮上。各国の中央中銀が対抗策として、自前のデジタル通貨の発行を視野に入れ始めました。

結局、2020年前半に発行予定であったフェイスブックのリブラの構想は頓挫し、各国当局の規制下に置かれた「普通の決済サービス」になるようです。中国のデジタル人民元が普及するならば、フェイスブックのリブラの方が良かったのではないか…と思うかもしれませんが、リブラは既存の既得権益を脅かすと捉えられ、各国の中央銀行に“封じ込め”された格好になってしまいました。

今後も、中国と米国の関係は注目されます。中国がデジタル通貨発行に前向きなのは、国内で監視を強めたり国外への資金逃避を防いだりする道具になり、上記で述べたように、長期的には「ドル覇権」からの脱却という大きな目的があるからです。一方、ドル基軸の国際通貨システムを主導する米国は、現状のドルの使用にこだわり、デジタル中銀通貨に積極的ではありません。この辺りの動きに、懸念を感じてしまうのは私だけではないでしょう。

新型コロナウイルスの発生源をめぐって米中は再び対立を強めており、今回のショックで世界が負った傷はあまりにも深く、再び米中関係が冬の時代に入ることは、容易に想像がつくでしょう。その中で、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大で甚大な損害を受けたとして、中国に損害賠償を求め、世界保健機関(WHO)への非難から資金拠出の停止を述べるなど、新型コロナをめぐり翻弄されている感を強く受けます。

アメリカが感染症対策に追われているなかで、中国は早期に経済を再開させ、着実にデジタル人民元の計画を進めています。この辺りの事実を認識し、危機感をいま一度、再認識するべきではないでしょうか。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)

京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。アベノミクスが立ち上がった時期に法人でトレーダーの経験を経て、フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当する、パラレルキャリア。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

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