確かに昔の人と比べて平均身長は伸びていますが、これは栄養や生活スタイルの変化によるもので、ではこの先100年で身長がどんどん伸びていくかと言われればそれは誤差の範囲になるのではないでしょうか。それは必ずしも身長が高い事が、人の進化と合致しているわけではないからでしょう。
そこには重力の存在が大きく関わっています。地球上に重力がある限り、私たちは常に重力という負荷に抗って生活をしています。つまり最低でも重力に対応するだけの筋力がなければ生存すら危ぶまれるのです。
ところがどんどんと身長が高くなっていくと、体自体の質量も増えていきますからそれに伴った筋力が必要となってきます。更には骨や関節といった部分への負担が、耐えきれなくなってきます。2mを超えるような巨大な人が、意外に脆かったりするのは関節が耐えきれないというケースでもあります。他にも日常生活での心臓など内臓への負担、単純に重心が高くなることによる体幹の不安定さも不利になる要因といえます。
1立方センチメートルが10倍に大きくなると10cm×10cm×10cmですから1,000立方センチメートルとなります。つまり大きさが10倍になれば、質量は10倍ではなく1,000倍になってしまうのです。ではそれを支える筋量は1,000倍に増えるのかと言われれば、答えはNOです。関節や内臓に関しても当然追いついていけません。
筋力はある一定のレベルまでは筋肉の断面積に比例しますから、先の例で言えば10cm×10cmの100平方センチメートルになり、つまり100倍にしかなりません。この調子でどんどんと拡大されていっては到底筋力が追いつきませんから、極端に身長が伸びていくという事が人間という生き物にとって必ずしも進化ではないのでしょう。
では逆にどういう状態が有利なのでしょうか。それは、身長がそこまで大きくならずとも、筋肉がしっかりとついているという状態です。関節や内臓が負担に耐えうる範囲内において、より筋量が多いという状態が生き物としてはより有利な状態と言えるのではないでしょうか。
何よりも、身長は成人した後は伸ばす事は困難ですが、筋量は努力さえすれば年齢に関わらず増えてくれるのですから、これこそが生物としても進化なのだと言えると思います。
若い頃、ある先輩に言われた言葉があります。その先輩は身長が高かったので、身長が高くていいですよねと私が言ったのに対して返された言葉でした。
「男は上にどれだけ取るかではなくて、横にどれだけ取るかの方が大事なんだ」
その頃は、なんとなく雰囲気だけで理解していましたが、今は自分なりの理解が進んだ気がしています。
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