武漢型でも欧米型でもない。日本中に蔓延する新型コロナの正体

 

児玉教授は言う。「たとえば東大の先端研だけでもフルにやれば1日数千件、いや数万件まで検査できるかもしれない。山中先生のiPS細胞研究所も数万件くらい簡単にできるはず。東大全体なら1日10万件くらいは簡単です。技術者もいます。生物学的安全施設もあります。だけど病院以外、大学は閉じられてしまった。これがいちばん問題です」

全国の大学のPCR検査可能な研究機関に、厚労省が協力を依頼すればすむことではないか。加藤厚労相と萩生田文科相がそれをまだ話し合っていないとすれば、この内閣は機能不全に陥っていると言うほかない。

東京都の感染者数が急速に増えている現状について、安倍首相は7月9日の会見でこう語った。

「4月と比べれば、重症者は大きく減っており、感染者の多くは20代、30代で、医療提供体制はひっ迫した状況ではない。政府としては自治体としっかりと連携しながら、検査体制の拡充、そして保健所の体制強化など、クラスター対策を一層強化してまいります」

無症状者、軽症者の比率が多いことを安心材料にしたいようだが、「Go Toキャンペーン」の怖さは、まさにその無症状感染者が、体内にウイルスを抱え込んでいるのを知らないまま各地を飛び回るところにある。

重症者を生まないためにも、検査の拡充による、無症状感染者の実態把握が必要なのだ。

児玉教授は無症状感染者や軽症者の免疫を徹底的に調べることが重要だと指摘する。どのように免疫が働いて、ウイルスを撃退しているのかがわかれば、治療法やワクチン開発のキーポイントになるからだ。

実は、児玉教授が日本記者クラブで講演した理由は、東大先端研など6つの大学・研究機関による定量抗体検査の分析結果を発表するためだった。抗体の有無だけではなく、抗体の量を測る精密な検査だ。

その結果わかったことの一つが、無症状感染者のなかに、抗体陰性のままの人が一定数いるという事実だ。こういう人は、抗体以外の免疫によって、ウイルスを撃退したということになる。

もっと詳しく言うなら、上気道の粘膜で自然免疫や細胞性免疫がしっかり働いたため、肺にまでウイルスが至らず、抗体(液性免疫)を産生しないですんでいると考えられるのだ。

免疫学の宮坂昌之・阪大免疫学フロンティア研究センター招へい教授も、新型コロナに関して「抗体は免疫機構の中でそんなに大きな役割を担っていないかもしれません」(7月2日朝日新聞デジタル)と指摘している。そうなると、抗体保有率60%以上で流行が止まるという集団免疫論が成り立つかどうか、大いに疑問だ。

一方、重症化する人の多くが、サイトカインストームと呼ばれる免疫の暴走や、抗体依存性の憎悪に見舞われていることもわかっている。「変異するコロナウイルスに免疫システムが欺かれている」と児玉教授は言う。

さて、東京の市中感染はかなり深刻なレベルになりつつある。とりわけ問題なのは若者を中心とした無症状、軽症の感染者が多いことだろう。無症状者にはほとんど感染性はないが、一部に感染力を持つ人がいて「突然、嵐のような蔓延が繰り返し起こる」(児玉教授)という。流行エリアで全数的な検査を行わなければならない理由はそこにある。

「Go Toキャンペーン」は予算総額1兆6,794億円の巨大プロジェクトである。実務にあたる業者への事務委託費は上限3,095億2,651万円にものぼる見込みだ。

変わり身が早い新型コロナは思ったよりはるかに手ごわい。秋から冬の第2波到来を想定していた政府としては、7月の感染拡大は計算外のことで、迷路にさまよいこんだ気分だろう。

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