慢性的な人手不足に悩まされている介護の現場ですが、コロナ禍の影響で転職希望者が増えているという現状もあるようです。しかしそれでも圧倒的に介護職員数は足りず、さらにこのタイミングで「介護」という概念を根本的に変えないと、超高齢社会を乗り越えるのは不可能とするのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、日本の介護現場が「二重の人材難」に直面していると指摘した上で、国に対して欧州のような「介護のパラダイムシフト」を起こすべきであるとしています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
コロナ禍の新たな選択
新型コロナウイルスの感染拡大防止策により、経済のダメージが長引いています。そんな中、慢性的な人手不足で悩んでいた介護業界に、コロナで打撃を受けた業界から、転職する人が増えていることがわかりました。
人材紹介会社が行った調査によると、介護業界への転職を決めた理由について、新型コロナの感染拡大の影響が「かなりある」48%、「少しある」26%と回答。全体の7割以上がコロナを理由にあげていました。
介護職の希望者が増えるのは喜ばしいことですし、一人でも多くの人が「高齢者と接する機会」が増えれば、高齢者にやさしい社会に近づくことも期待できます。
とはいえ、総務省が発表したデータによると、前年に比べて29万人もの人口が減少している一方で、65歳以上の高齢者は3,617万人と過去最多を更新しています(2020年9月15日現在)。
介護職員数は、2000年度には54万9,000人から2016年度には183万3,000人と、3倍も増えているのに全く足りていません。
さらに、コロナ禍で「要介護申請数」「区分変更」共に急増したことも時事通信の調べでわかりました。2020年9月と10月は連続で19年実績を2割超上回り、10月には要支援から要介護に変わる申請が、前年同月比30%超増えた自治体が10市に上ったのです。
コロナで自宅にこもりがちになれば、足腰は弱る。脳の機能や心身の“体力”も弱る。その結果として、介護が必要になったり、介護度が悪化したりしてしまったのでしょう。そして、おそらくこの先も増えていくことは容易に想像できます。
問題はそれだけではありません。「介護職」といっても、1ヶ月の初任者研修で厚労省認定の資格を取得した人もいれば、実務経験と専門的な知識とスキルを研修で習得し、国家資格の「認定介護福祉士」を取得した人まで、さまざまです。
つまり、
- 高齢者急増→介護職需要高まる
- 要介護の高い高齢者が増える→介護スキルの高い介護職の需要が高まる
という二重の人材難に日本は直面している。数と質の両方が足りてない状況はますます深刻化していくのです。
どんなに「介護職を目指す人が増えた!」としても、今の介護制度では“すずめの涙”にもならない。
「介護」という概念を根本的に変えないと、超高齢社会を乗り越えるのは不可能です。しかし、一向にそういった議論にはなりません。
日本では「高齢者=介護される人」の視点で語られますが、欧州でそれは過去のこと。高齢者に社会へ「参加」してもらう視点の取り組みを国が全力で進め、介護のあり方を変えました。「介護のパラダイムシフト」です。